宮本百合子 『二つの庭』 「そのひと、やっぱり叔父さんの弟子なの?」…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『二つの庭』

現代語化

「その人、やっぱり叔父さんの弟子なの?」
「特別そうでもないと思う――そもそも今回の雑誌は、主義とかそういうためじゃないらしいし」
「そうよね。――でも、……どういうの?こうって風に作りたいっていう方針はあるんでしょ」
「僕たちは、人に見せびらかしたり威張ったりするために書くものではなく、本当に自分の心を追究して、良心に従って書いたものを集めようと思ってる」
「――タイトル、決まった?」
「うん」
「まだ……」
「その3、4人で書くの?」
「そうしようと思ってる」
「他の人は書かないの?」
「もちろん書いてもらってもいいんだけど――」
「みんな、すぐ熱くなって議論するんだもの、相手を必死に負かそうとするんだもの――」
「……」
「こないだも、僕、佐々は馬鹿だって、みんなに言われた」
「どうして?」
「僕、調停派なんだって。……佐々は生まれつきの調停派だって――」
「それって、佐々がバカってこと?」
「そうらしい」
「調停派って――」
「保さん、そんなに調停するの?」
「そうしようと思わなくても、そうなっちゃう」
「どっちの議論もよく聞いて、相手に勝とうとしなければ、みんなそれなりに理屈はあるんだもの」
「それはそうかもしれないけどさ……」
「公平」
「だって、――議論ってのは、真中に1つの問題があって、それをはっきりさせるために起こるんでしょ?だから、バラバラに、1つずつの議論がそれ自体で理屈があるってのは、目的じゃないと思うんだけど。中心の問題にとって、正しい扱い方、正しい解釈ってのが当然あるんじゃないの?」
「うん」
「だからさ、正しい結論が出るまでの議論には、的外れなこともあるわけでしょう?そして、それは捨てていくのよ。みんなそれ自体に理屈がある、っていうのは、おかしいわ。――そう思わない?」
「……」
「保さんが、みんなの議論してる時に、あれもこれもそれ自体が正しいなんて言えば、それは調停派だか何だか、とにかく変なことだし、間違ってると思うわ」
「僕がばかだっていわれたときは、暴力論だったんだ」
「……」
「人間にとってより良い社会を作るっていうんなら、なぜそのために暴力なんか使わなきゃならないのかなあ。――僕、どうしたって暴力って悪いもんだと思う」
「いいことのために、悪いことをするって、矛盾だと思うんだ。悪いことは、どんな理由に使ったって悪いと思う」

原文 (会話文抽出)

「そのひと、やっぱり叔父さんの弟子なの?」
「特別そうというんでもないと思う――だいたいこんど雑誌やるのは、主義やなんかのためじゃないんだもの」
「それゃそうでしょう。――でも、……どういうの? こういう風につくりたいという方針はあるにきまってるわ」
「僕たち、人に見せるためや威張るために書いたものでなく、本当に自分の心を追究して良心のために書いたものを集めようと思ってる」
「――題、きまった?」
「ううん」
「まだ……」
「その三四人のひとだけ書くの?」
「そうしようと思ってる」
「ほかのひとに書かせないの?」
「もちろん書かせたっていいんだけれど――」
「みんな、すぐ猛烈に議論するんだもの、相手を一生懸命にまかそうとばかりするんだもの――」
「…………」
「こないだも、僕、佐々は馬鹿だ、ってみんなにいわれた」
「どうして?」
「僕は、調停派なんだって。……佐々は生れつきの調停派だって――」
「それは、佐々はバカということになるの」
「そうらしい」
「調停派って――」
「保さん、そんなに調停するの」
「そうしようと思わなくたって、そうなっちゃう」
「どっちの議論だって、よくきいてみて、相手に勝とうとさえ思わなければ、みんなそれとしては理窟があるんだもの」
「それゃそうかもしれないけれどさ……」
「公平」
「だって、――議論なんてものは、真中に一つ問題があって、それをはっきりさせるために起るんでしょう? だもの、てんでんばらばらに、一つずつの議論がそれとして理窟をもっているというのが眼目にはならないんじゃないの。中心の問題にとって、正しいとりあげかた、正しい解釈というものが当然ある筈じゃないの」
「うん」
「だからさ、正しい結論が出るまでの議論には、見当ちがいなのもあるわけでしょう? そして、それはすててゆくのよ。みんなそれとして理窟がある、というようなのは、変だわよ。――そう思わない?」
「…………」
「保さんが、みんなの議論してるとき、あれもこれもそれとして正しいなんていえば、それは調停派だか何だか、ともかくおかしなことだし、間違っていると思うわ」
「僕がばかだっていわれたときは、暴力論だったの」
「…………」
「人類のためよりいい社会をつくるというんなら、なぜそのために暴力なんて使わなけれゃならないのかなあ。――僕、どうしたって暴力ってわるいもんだと思う」
「いいことのために、わるいことをするって、まるで矛盾だと思うんだ。よくないことは、どういうためにつかったってよくないと思う」

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