宮沢賢治 『税務署長の冒険』 「どうだったね、少しはわかりましたか。」…
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青空文庫図書カード: 宮沢賢治 『税務署長の冒険』
現代語化
「どうだった?ちょっとはわかった?」
「どうもダメでした。あの村には濁り酒はないみたいです」
「そうか。どうやって調べたんだ」
「ニタナイのとこでちょうどおじいさんが亡くなって、人が集まったら必ずお酒を飲むはずなので、その前の家に無理やり一晩泊めてもらいました。するとその家の連中がみんな手伝いに来て、道具なんかも貸してくれたんです。私は二階から隣の人の話を一晩寝ないで聞いてました。すると夜中に酒が出たんです。もう一語も聞き逃すまいと思ってましたが、そのうちの一人が口をすぼめて歯に息を吹きかけるような音がしたんです。これはもう絶対濁り酒じゃないと思ってたら」
「うんうん、君の観察は鋭い。それで?」
「そしたら一人がこう言いました。『うまい、本当においしい、これならイーハトヴの友も何もかなわないな』って。イーハトヴの友もかなわないって言うくらいだから、密造酒じゃないと思いました」
「その酒の名前は聞いたか?」
「北の輝だと思います」
「いや、北の輝じゃない。絶対違う。あのいい酒はどこで作ってるのか、どこの県から入ってるのか、それを調べるために君を頼んだんだ。でもその次に7日間、君は何してたんだ?」
「それからはずっと森の中や谷を歩いて、山地密造酒を探してました」
「あったか?」
「ありませんでした」
「だろ。そんな藪の中でこそこそ作るような酒じゃない。どこか床下を掘ったりして、少し大規模にやってるだろうと最初から注意したじゃないか」
「わかりました。それでは帰って休んでください。ご苦労さまでした。シラトリ君を呼んでくれ」
「君、ユグチュユモトに行ってくれ。むしろそのままの方がいい。あの、この前の村会議員のところに行って、僕からってことで、先日はごちそうになってありがとうございました、と。その席でふざけて酒造会社設立のことを話したら、みんな結構本気で考えてくれてたみたいで、こちらから技術員を出すから、モデル的な酒造工場をその村で作ってみないかと。原料もそちらのは醸造に適してると思うんだけどって持ちかけてみて、じっと顔色を見てくれ。きっと向こうは資金がないって言うだろうから、そしたら半官半民方式でやろうじゃないか、って言ってくれ。そしてその返事を一言一句漏らさずに覚えて帰ってくれ。急いで行って。今日中に帰れるだろう。明日は休みでもいいから」
「帰れます」
原文 (会話文抽出)
「どうだったね、少しはわかりましたか。」
「どうもいけませんでした。あの村には濁密はないやうであります。」
「さうですか。どう云ふやうにしてしらべました。」
「ニタナイのとこに丁度老人でなくなった人があったのです。人が集ったらいづれ酒を呑まないでゐないからと存じましてすぐその前のうちへ無理に一晩泊めて貰ひました。するとそのうちからみんな手伝ひに参りまして道具やなんかも貸したのでございます。私は二階からじっと隣りの人たちの云ふことを一晩寝ないで聞いて居りました。すると夜中すぎに酒が出ました。もう一語でもきゝもらすまいと思ってゐましたら、そのうち一人がすうと口をまげて歯へ風を入れたやうな音がしました。これはもうどうしても濁り酒でないと思ってゐましたら、」
「ふんふん、なかなか君の観察は鋭い。それから。」
「そしたら一人が斯う云ひました。いゝ、ほんとにいゝ、これではもうイーハトヴの友もなにも及ばないな。と云ひました。イーハトヴの友も及ばないとしますととても密造酒ではないと存じました。」
「その酒の名前を聞きましたか。」
「私は北の輝だらうと思ひます。」
「いゝや、北の輝ぢゃない。断じてさうでない。そのいゝ酒がどこから出来てゐるかどの県から入ってるかそれをよくしらべに君をたのんだのだ。けれどもそしてそれからあと七日君はいったい何をして居たのだ。」
「それからあとは毎日林の中や谷をあるいて山地密造酒を探して居りました。」
「あったか。」
「ありませんでした。」
「見給へ。そんな藪の中にこっそり作るやうなそんなのぢゃない。どこか床下をほるかなんかしても少し大きくやってゐるだらうとはじめから僕が注意して置いたぢゃないか。」
「いや、よろしい。帰ってやすみ給へ。ご苦労でした。シラトリ君に一寸来いと云って呉れ給へ。」
「君、ユグチュユモトへ行ってくれ給へ。却ってそのまゝの方がいゝ。あのね、この前の村会議員のとこへ行ってね、僕からと云ふ口上でね、先ころはごちそうをいたゞいて実にありがたう、と、ね、その節席上で戯談半分酒造会社設立のことをおはなししたところ何だか大分本気らしいご挨拶があったとね、で一つこの際こちらから技術員も出すから模範的なその造酒工場をその村ではじめてはどうだらう、原料も丁度そちらのは醸造に適してゐると思ふと斯う吹っかけて見てじっと顔いろを見て呉れ給へ。きっと向ふが資本がありませんでと斯う云ふからね、そしたらどうでせう、半官半民風にやらうぢゃありませんかと斯うやって呉れ給へ。そしてその返事をもうせき一つまでよく覚え込んで帰って呉れ給へ。いますぐです。今日中に帰れるだらう、あしたは休んでもいゝから。」
「帰れます。」
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