宮沢賢治 『山男の四月』 「おい、誰だい。さつきおれにものを云ひかけ…

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青空文庫図書カード: 宮沢賢治 『山男の四月』

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「おい、誰だよ?さっき俺に声かけたのは。」
「私だよ。それでさっきの話の続きだけど、お前が魚屋の前から来たってことは、今のスズキがいくらで、干しフカのヒレが10両に何斤くるか知ってるんだろうな?」
「ああ、そんなものは、あの魚屋にはなかったみたいだぜ。まぐろはあったけどな。あのまぐろは足つきが良かったな。」
「へえ、そんなにいいまぐろかい?私もまぐろは大好物なんだよ。」
「うん、まぐろ嫌いなやつなんていないだろ。あれを嫌うくらいなら、どうせろくな奴じゃないよ。」
「まったくその通り。まぐろくらい立派なものって、世界中探してもないよ。」
「そうだろ?お前は一体どこから来たんだ?」
「俺かい?上海だよ。」
「お前はやっぱり支那人なんだろ?支那人ってのは薬にされたり、薬にしてそれを売ったりして気の毒だよな。」
「そうじゃない。ここらへんを歩いているのは、みんな陳みたいないやしい奴ばかりだけど、本当の中華人民共和国人なら、いくらでも立派な人がいる。俺たちはみんな孔子聖人の末裔なんだ。」
「なんだかわからないけど、表にいるやつは陳って言うのか?」
「そうだ。ああ暑い。蓋を取ってもいいのに。」
「うん。よし。おい、陳さん。どうも蒸し暑くてたまらないよ。ちょっと風を入れてもらえないか?」
「もう少しお待ちください。」
「早く風を入れないと、俺たちはみんな蒸れてしまう。お前のためにもならないよ。」
「それは困りますが、我慢してください。」
「我慢も何もないよ。俺たちが好きで蒸れてるんじゃないんだ。勝手に蒸れてしまうんだ。早く蓋を開けろ。」
「あと20分お待ちください。」
「おい、しょうがないな。それなら少し急いで歩いてくれ。しょうがないな。ここにいるのはお前だけかい?」
「いいえ、まだたくさんいます。みんな泣いています。」
「それはかわいそうだ。陳は悪い奴だな。どうにかして俺たちは、もう一度元の姿に戻れないだろうか?」
「できますよ。あなたはまだ、骨まで六神丸にはなっていませんから、丸薬を飲めば元に戻れます。あなたのすぐ横にある黒い瓶がそれです。」
「そうか。それはいいな。じゃあすぐに飲もう。でも、あなたたちは飲んでもダメなんですか?」
「ダメです。でもあなたが飲んで元の姿に戻ったら、俺たちをみんな水に漬けて、よくもんでください。それから丸薬を飲めばきっとみんな元に戻れます。」
「そうか。よし、引き受けた。俺は必ずあなたたちをみんな元の姿に戻してやるからな。丸薬ってのはこれだな。そしてこっちの瓶は人間が六神丸になる方か。陳もさっき俺と一緒にこの水薬を飲んだけど、どうして六神丸にならなかったんだろう?」
「一緒に丸薬を飲んだからですよ。」
「ああ、そうか。もし陳がこの丸薬だけ飲んだらどうだろう?変わらない人間がまた元の姿に戻ると、なんだか変だな。」
「中国製品いかがですか?あなた、中国製品買いませんか?」
「ははあ、始まったな。」

原文 (会話文抽出)

「おい、誰だい。さつきおれにものを云ひかけたのは。」
「わしだよ。そこでさつきの話のつゞきだがね、おまへは魚屋の前からきたとすると、いま鱸が一匹いくらするか、またほしたふかのひれが、十両に何斤くるか知つてるだらうな。」
「さあ、そんなものは、あの魚屋には居なかつたやうだぜ。もつとも章魚はあつたがなあ。あの章魚の脚つきはよかつたなあ。」
「へい。そんないい章魚かい。わしも章魚は大すきでな。」
「うん、誰だつて章魚のきらひな人はない。あれを嫌ひなくらゐなら、どうせろくなやつぢやないぜ。」
「まつたくさうだ。章魚ぐらゐりつぱなものは、まあ世界中にないな。」
「さうさ。お前はいつたいどこからきた。」
「おれかい。上海だよ。」
「おまへはするとやつぱり支那人だらう。支那人といふものは薬にされたり、薬にしてそれを売つてあるいたり気の毒なもんだな。」
「さうでない。ここらをあるいているものは、みんな陳のやうないやしいやつばかりだが、ほんたうの支那人なら、いくらでもえらいりつぱな人がある。われわれはみな孔子聖人の末なのだ。」
「なんだかわからないが、おもてにゐるやつは陳といふのか。」
「さうだ。ああ暑い、蓋をとるといゝなあ。」
「うん。よし。おい、陳さん。どうもむし暑くていかんね。すこし風を入れてもらひたいな。」
「もすこし待つよろしい。」
「早く風を入れないと、おれたちはみんな蒸れてしまふ。お前の損になるよ。」
「それ、もとも困る、がまんしてくれるよろしい。」
「がまんも何もないよ、おれたちがすきでむれるんぢやないんだ。ひとりでにむれてしまふさ。早く蓋をあけろ。」
「も二十分まつよろしい。」
「えい、仕方ない。そんならも少し急いであるきな。仕方ないな。ここに居るのはおまへだけかい。」
「いゝや、まだたくさんゐる。みんな泣いてばかりゐる。」
「そいつはかあいさうだ。陳はわるいやつだ。なんとかおれたちは、もいちどもとの形にならないだらうか。」
「それはできる。おまへはまだ、骨まで六神丸になつてゐないから、丸薬さへのめばもとへ戻る。おまへのすぐ横に、その黒い丸薬の瓶がある。」
「さうか。そいつはいゝ、それではすぐ呑まう。しかし、おまへさんたちはのんでもだめか。」
「だめだ。けれどもおまへが呑んでもとの通りになつてから、おれたちをみんな水に漬けて、よくもんでもらひたい。それから丸薬をのめばきつとみんなもとへ戻る。」
「さうか。よし、引き受けた。おれはきつとおまへたちをみんなもとのやうにしてやるからな。丸薬といふのはこれだな。そしてこつちの瓶は人間が六神丸になるはうか。陳もさつきおれといつしよにこの水薬をのんだがね、どうして六神丸にならなかつたらう。」
「それはいつしよに丸薬を呑んだからだ。」
「ああ、さうか。もし陳がこの丸薬だけ呑んだらどうなるだらう。変らない人間がまたもとの人間に変るとどうも変だな。」
「支那たものよろしいか。あなた、支那たもの買ふよろしい。」
「ははあ、はじめたね。」

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