GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『妖婆』
現代語化
「電車から落ちてさ、鞍掛橋のところで飛び降りそうになっちゃったんだ。」
「田舎者じゃあるまいし、――気が利かないにもほどがあるよ。でも何でまた、あんなところで、飛び降りなんかしたの?」
「状況は最悪だね。俺はお敏さんが失敗したんじゃないかって思うんだ。」
「失敗したんじゃないかって? お前一体お敏さんに何やらせたんだ?」
「まあ、こうなっちゃったのも俺のせいなのかもしれないな。俺がお敏さんに手紙を渡したことを、電話でお前にしゃべらなかったら、あの婆さんも俺の計画に気づかなかっただろうからな。」
「今さらになってもまだお前の計画を教えてくれないって、お前、あんまり残酷じゃないか。そっちのおかげで俺、二重の苦しみをしなきゃならないんだ。」
「まあ。」
「そりゃ重々もっともだよ。もっともだってことは俺もよくわかってるんだけど、あの婆さんを相手にしてる以上、これも仕方がないことだって思ってくれよ。さっきも言ったとおり、俺がお敏さんに手紙を渡したことも、お前には秘密にしてたら、もっと万事うまく運んだかもしれないと思ってるんだ。なんせお前の言動は、全部あの老婆には見透かされてんらしいからね。いや、もしかしたら、あのときの電話の一件以来、俺もずいぶんあの婆さんに睨まれてるかもしれない。でも今のところじゃ、とにかく俺にはお前ほど変な出来事は起きてないんだから、実際俺の計画が失敗したのかどうか、それがはっきりわかるまでは、いくらお前が恨んでも、全部俺一人で胸にしまっておきたいと思うんだ。」
原文 (会話文抽出)
「どうしたんだい。その体裁は。」
「電車から落っこってね、鞍掛橋の所で飛び降りをしそくなったもんだから。」
「田舎者じゃあるまいし、――気が利かないにも、ほどがあるぜ。だが何だってまた、あんな所で、飛び降りなんぞしたんだろう。」
「形勢いよいよ非だね。僕はお敏さんが失敗したんじゃないかと思うんだが。」
「失敗したんじゃないかって? 君は一体お敏に何をやらせようとしたんだ。」
「もっともこうなるのも僕の罪かも知れないんだ。僕がお敏さんへ手紙を渡した事なんぞを、電話で君にしゃべらなかったら、あの婆も僕の計画には感づかずにいたのに違いないんだからな。」
「今になってもまだ君の計画を知らせてくれないと云うのは、あんまり君、残酷じゃないか。そのおかげで僕は、二重の苦しみをしなけりゃならないんだ。」
「まあ。」
「そりゃ重々もっともだよ。もっともだと云う事は僕もよく承知しているんだが、あの婆を相手にしている以上、これも已むを得ない事だと思ってくれ給え。現に今も云った通り、僕はお敏さんへ手紙を渡した事も、君に打明けずに黙っていたら、もっと万事好都合に、運んだかも知れないと思っているんだ。何しろ君の一言一動は、皆、お島婆さんにゃ見透しらしいからね。いや、事によると、この間の電話の一件以来、僕も随分あの婆に睨まれていないもんでもない。が、今までの所じゃ、とにかく僕には君ほどの不思議な事件も起らないんだから、実際僕の計画が失敗したのかどうか、それがはっきり分るまでは、いくら君に恨まれても、一切僕の胸一つにおさめて置きたいと思うんだ。」