林不忘 『元禄十三年』 「何を泣く――？」…

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青空文庫図書カード: 林不忘 『元禄十三年』

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「何を泣いてるんだ――？」
「欲しいものがあります。それさえいただければ――」
「ほうほう、何か欲しいのか」
「子どもだね。必ず一緒に寵愛するよ――その証拠に。面白いな。で、何が欲しいんだ」
「あの――」
「あれか。はははは、あの扇箱か」
「はい――いえ、あれに、扇を入れてください――それから、その扇に、ちょっとお願いしたいことがあります」
「骨は――と、木を使って、変わった素材のように見せること、だね。面倒なことを思いついたなあ！」
「えーっと、何でしたっけ？――木地に色を塗って玳瑁や大理石のように見せる方法、でしたね。まず素材をきれいに磨いた後、鉛丹に膠水、または普通の荏油を混ぜた、黄色っぽい茶色色の地色を塗る。これに、血竭二羅度、焼酎十六度から作った越幾斯で、雲のような斑点を模様を描く。それから、あらかじめ地色をよく乾かしてから、透明な漆を全体にかける」

原文 (会話文抽出)

「何を泣く――？」
「ほしいものがございます。それさえ下されましたら――。」
「ほほう、物が欲しい。」
「子供よのう。必ずともに寵愛いたす――との証拠にな。面白いぞ。して何が所望じゃ。」
「あの――。」
「あれか。はっはっは、あの扇箱か。」
「はい――いえ、あれに、扇をお入れ下さいまして――そうして、その扇に、ちょっと好みがございます。」
「骨は――と、木を用いて、変り材のごとく観すること、か。厄介なことを思いつきやがったなあ！」
「ええと、何だって？――木地を塗りて玳瑁あるいは大理石の観をなさしむる法、とくらあ。まず材をよく磨きてのち、鉛丹に膠水、または尋常の荏油仮漆を和せたる、黄赤にしてたいまい色をなすところの元料を塗る。さてこれに、血竭二羅度、焼酎十六度よりなる越幾斯にて、雲様の斑点を模彩す。かつ、あらかじめ原色料をよく乾かすよう注意、清澄たる洋漆を全面へ浴びせるべし。」

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