林不忘 『元禄十三年』 「侮辱だ。立派な挑戦じゃ――。」…

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青空文庫図書カード: 林不忘 『元禄十三年』

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「侮辱だ。立派な挑戦じゃないか――」
「うん。俺に聞かなくても、饗応役ができるってことだろう。面白い。やってみろ。楽な仕事じゃないぞ。この無礼な態度――初めてだ」
「殿様」
「酔い覚ましのものがこれ。松飾がなくなったら、扇箱のお返しはありませんかって、裏口から顔を出すんだろうよ。あれは、買い集めて、箱屋に返して、また来年――」
「いいのが見つかったとか言ってたよ」
「出てきたよ」
「あちこちに頼んでおいたら、これもご縁だったな。いや、すごいもの、素晴らしいもの――どんなに人形食いの殿様でも、これをお気に召さないのなら、今後こういう相談はご遠慮します、なんて、前置きが長いな」
「うーむ、どうしたものか」
「美濃か。美濃か。ははは――そうだ、連れてこい、その女を」

原文 (会話文抽出)

「侮辱だ。立派な挑戦じゃ――。」
「うむ。おれに訊かんでも、饗応方が勤まるという意じゃろう。面白い。勤めてみるがよい。物のたかではないぞ。この無礼な仕打ち――はじめてじゃ。」
「殿様。」
「酔興なお品がこれに。松飾がとれますと、扇箱のお払いものはございませんか、って、裏ぐちから顔を出しますな。あれは、買いあつめて、箱屋へ返して、来新春また――。」
「よいのがあるとか申したのう。」
「現れました。」
「あちこち口を掛けておきましたところが、これも縁でございますな。いや、逸物、尤物――なんぼ人形食いの殿様でも、これがお気に召しませんようでは、今後こういう御相談は、平茂、まっぴら御免、なんて、前置きが大変。」
「ううむ、どうしてくれよう。」
「美濃か。美濃か。はっはっは――そうさのう、伴れてまいれ、その女を。」

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