芥川龍之介 『運』 「じゃそれでいよいよけりがついたと云う訳だ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『運』

現代語化

「それで全部解決したってこと?」
「ところが」
「その家のいたとき、急に外で人が騒がなくなって、あれ見ろ、あれ見ろって怒鳴り声が聞こえてくるの。何しろ、後ろ暗い状況でしょ、娘はまた不安になったの。あの泥棒が仕返しに来たのか、それとも警察が追ってきてるのか、――そう思うともう、ゆっくりご飯も食べられないよ。」
「なるほど。」
「そこで、そーっと戸の隙間から外を覗いてみると、男女の見物人の間に、牢屋の人間が5、6人と、その監視役が1人、威張って歩いてんの。それからその連中に囲まれて、縄で縛られた男が1人、あちこち破れた着物に、帽子もかぶらず、引きずられてるんだ。どうやら泥棒を捕まえて、これからその家に行って調べに行くところらしいよ。「しかも、その泥棒って、昨夜、五条坂で話しかけてきた男だっていうじゃない。娘はそれを見ると、なぜだか涙が出てきたんだって。本人から聞いたんだけど――惚れてたとかそういうわけじゃないんだけど、あの縄で縛られた姿を見たら、急に自分がみじめになって、思わず泣いてしまったんだって、まあそういうことなんだよ。その話聞いたとき、俺もそう思ったよ――」
「へえ」
「神様に頼むのも考え物だなって。」
「でも、おじいさん。その女は、その後どうなったの?」
「どうなったどころか、今は不自由なく暮らしてるよ。あの綾と絹を売って、それで生活してたんだ。神様は、それは約束を守ったんだな。」
「それなら、あれくらいのことあってもいいってことか。」
「人を殺しても、泥棒の女房になっても、自分でやる気じゃなかったら仕方ないよな。」

原文 (会話文抽出)

「じゃそれでいよいよけりがついたと云う訳だね。」
「所が」
「その知人の家に居りますと、急に往来の人通りがはげしくなって、あれを見い、あれを見いと、罵り合う声が聞えます。何しろ、後暗い体ですから、娘はまた、胸を痛めました。あの物盗りが仕返ししにでも来たものか、さもなければ、検非違使の追手がかかりでもしたものか、――そう思うともう、おちおち、粥を啜っても居られませぬ。」
「成程。」
「そこで、戸の隙間から、そっと外を覗いて見ると、見物の男女の中を、放免が五六人、それに看督長が一人ついて、物々しげに通りました。それからその連中にかこまれて、縄にかかった男が一人、所々裂けた水干を着て烏帽子もかぶらず、曳かれて参ります。どうも物盗りを捕えて、これからその住家へ、実録をしに行く所らしいのでございますな。「しかも、その物盗りと云うのが、昨夜、五条の坂で云いよった、あの男だそうじゃございませぬか。娘はそれを見ると、何故か、涙がこみ上げて来たそうでございます。これは、当人が、手前に話しました――何も、その男に惚れていたの、どうしたのと云う訳じゃない。が、その縄目をうけた姿を見たら、急に自分で、自分がいじらしくなって、思わず泣いてしまったと、まあこう云うのでございますがな。まことにその話を聞いた時には、手前もつくづくそう思いましたよ――」
「何とね。」
「観音様へ願をかけるのも考え物だとな。」
「だが、お爺さん。その女は、それから、どうにかやって行けるようになったのだろう。」
「どうにか所か、今では何不自由ない身の上になって居ります。その綾や絹を売ったのを本に致しましてな。観音様も、これだけは、御約束をおちがえになりません。」
「それなら、そのくらいな目に遇っても、結構じゃないか。」
「人を殺したって、物盗りの女房になったって、する気でしたんでなければ仕方がないやね。」


青空文庫現代語化 Home リスト