新美南吉 『うた時計』 「おじさん、わかった、これ時計だろう」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 新美南吉 『うた時計』

現代語化

「おじさん、分かった、これ時計だろう?」
「うん、オルゴールってやつさ。おまえがネジを触ったもんだから、鳴り出したんだよ」
「僕、この音楽大好きさ」
「そうかい、おまえもこの音楽知ってるのかい?」
「うん。おじさん、これ、ポケットから出してもいい?」
「出さなくてもいいよ」
「おじさん、もう1回鳴らしてもいい?」
「うん、誰も聞いてないだろうな」
「どうして、おじさん、そんなにキョロキョロしてるの?」
「だって、誰かが聞いていたら、変に思うだろう。大人がこんな子どものおもちゃを鳴らしていては」
「そうね」
「おじさん、こんなもの、いつも持ち歩いてるの?」
「うん、変かい?」
「変だなあ」
「どうして?」
「僕がよく遊びに行く、薬屋のおじさんのところにも、オルゴールがあるけど、大切にして、店の棚の中に入れてあるよ」
「なんだ、坊や、あの薬屋に、よく遊びに行くのか?」
「うん、よく行くよ、僕の家の親戚だもん。おじさんも知ってるの?」
「うん……ちょっと、おじさんも知ってる」
「あの薬屋のおじさんはね、そのオルゴールをとても大切にしていてね、僕たち子どもには、なかなか触らせないよ……あれっ、また止まった。もう1回鳴らしてもいい?」
「キリがないじゃないか」
「もう1回だけ。ね、おじさんいいでしょ、ね、ね。あ、鳴り出した」
「こいつ、自分で鳴らしておいて、あんなこと言ってやがる。ずるいぞ」
「僕、知らないよ。手がちょっと触ったら、鳴り出したんだもん」
「あんなこと言ってやがる。それで坊やは、その薬屋に、よく行くのか?」
「うん、すぐ近くだからよく行くよ。僕、そのおじさんと仲良しなんだ」
「ふうん」
「でも、なかなかに、オルゴールを鳴らしてくれないんだ。オルゴールが鳴るとね、おじさんは、寂しそうな顔をするよ」
「どうして?」
「おじさんはね、オルゴールを聞くとね、どういうわけか周作さんのことを思い出すんだって」
「えッ……ふうん」
「周作って、おじさんの子どもなんだよ。不良少年になってね、学校が終わると、どこかにいっちゃったって。もうずいぶん前だよ」
「その薬屋のおじさんはね、その周作……とかいう息子さんのことを、どう言ってるかい?」
「バカなヤツだって、言ってるよ」
「そうかい。そうだね、バカだね、そんなヤツは。あれ、もう止まったな。坊や、もう1回だけ、鳴らしてもいいよ」
「ほんと?……ああ、いい音だなあ。僕の妹のアキコがね、とっても、オルゴールが大好きでね、死ぬ前に、もう1回あれを聴かせてくれって、泣いてぐずったのでね、薬屋のおじさんのところから借りてきて、聴かせてやったよ」
「……死んじゃったのかい?」
「うん、おととしの祭りの前だよ。藪の中のおじいさんのそばにお墓があるよ。川原から、お父さんが、このくらいの丸い石を拾ってきて立ててある、それがアキコのお墓さ、まだ子どもだもんね。それでね、命日に、僕、また薬屋からオルゴールを借りてきて、藪の中で鳴らして、アキコに聴かせてやったよ。藪の中で鳴らすと、涼しげな声が出るんだよ」
「うん……」

原文 (会話文抽出)

「おじさん、わかった、これ時計だろう」
「うん、オルゴールってやつさ。おまえがねじをさわったもんだから、うたいだしたんだよ」
「ぼく、この音楽だいすきさ」
「そうかい、おまえもこの音楽知ってるのかい」
「うん。おじさん、これ、ポケットから出してもいい?」
「出さなくてもいいよ」
「おじさん、もう一ぺん鳴らしてもいい?」
「うん、だアれもきいてやしないだろうな」
「どうして、おじさん、そんなにきょろきょろしてるの?」
「だって、だれかきいていたら、おかしく思うだろう。おとながこんな子どものおもちゃを鳴らしていては」
「そうね」
「おじさん、こんなものを、いつも持って歩いてるの」
「うん、おかしいかい」
「おかしいなァ」
「どうして」
「ぼくがよく遊びにいく、薬屋のおじさんのうちにも、うた時計があるけどね、だいじにして、店のちんれつだなの中に入れてあるよ」
「なんだ、坊、あの薬屋へ、よく遊びにいくのか」
「うん、よくいくよ、ぼくのうちの親類だもん。おじさんも知ってるの?」
「うん……ちょっと、おじさんも知っている」
「あの薬屋のおじさんはね、そのうた時計をとてもだいじにしていてね、ぼくたち子どもに、なかなかさわらせてくれないよ……あれッ、またとまっちゃった。もう一ぺん鳴らしてもいい?」
「きりがないじゃないか」
「もう一ぺんきり。ね、おじさんいいだろ、ね、ね。あ、鳴りだしちゃった」
「こいつ、じぶんで鳴らしといて、あんなこといってやがる。ずるいぞォ」
「ぼく、知らないよ。手がちょっとさわったら、鳴りだしたんだもん」
「あんなこといってやがる。そいで坊は、その薬屋へよくいくのか」
「うん、じき近くだからよくいくよ。ぼく、そのおじさんとなかよしなんだ」
「ふうん」
「でも、なッかなか、うた時計を鳴らしてくれないんだ。うた時計が鳴るとね、おじさんは、さびしい顔をするよ」
「どうして?」
「おじさんはね、うた時計をきくとね、どういうわけか周作さんのことを思い出すんだって」
「えッ……ふうん」
「周作って、おじさんの子どもなんだよ。不良少年になってね、学校がすむと、どっかへいっちゃったって。もうずいぶんまえのことだよ」
「その薬屋のおじさんはね、その周作……とかいうむすこのことを、なんとかいっているかい?」
「ばかなやつだって、いってるよ」
「そうかい。そうだなあ、ばかだな、そんなやつは。あれ、もうとまったな。坊、もう一どだけ、鳴らしてもいいよ」
「ほんと?……ああ、いい音だなあ。ぼくの妹のアキコがね、とっても、うた時計がすきでね、死ぬまえに、もう一ぺんあれをきかしてくれって、ないてぐずったのでね、薬屋のおじさんとこから借りてきて、きかしてやったよ」
「……死んじゃったのかい?」
「うん、おととしのお祭のまえにね。やぶの中のおじいさんのそばにお墓があるよ。川原から、おとうさんが、このくらいのまるい石をひろってきて立ててある、それがアキコのお墓さ、まだ子どもだもんね。そいでね、命日に、ぼくがまた薬屋からうた時計を借りてきて、やぶの中で鳴らして、アキコにきかしてやったよ。やぶの中で鳴らすと、すずしいような声だよ」
「うん……」


青空文庫現代語化 Home リスト