GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『それから』
現代語化
「つまり君は自分がしたことを悪いと思ってるんだね?」
「もちろん」
「悪いと思ってるのに今日まで進んできたんだね?」
「そうだ。だから、この件に関して、君が僕たちに与えるどんな罰も素直に受けるつもりだ。さっきの言葉はただ事実をそのまま話しただけで、君に裁いてもらうための材料だよ」
「僕の傷つけられた名誉が、回復できるような手段が、この世にあると思うのかい?」
「法律や社会の罰なんてどうでもいいよ」
「つまり君は、当事者同士で、名誉を回復する手段があるのかって聞きたいんだね?」
「そうだ」
「みちよさんの心を豹変させて、君を今まで以上に愛させるようにして、その上で僕を蛇蝎のように憎ませてさえすれば、いくらか償いになる」
「それが君のやり方でできるのかい?」
「できない」
「つまり君は、悪いと思ったことを今日まで進展させておいて、まだその悪いと思っているやり方を徹底的に続けようとしているんじゃないか?」
「矛盾しているかもしれない。でもそれは、世間で決めた夫婦関係と、自然の成り行きで生まれた夫婦関係が一致しなかったという矛盾だから仕方ない。僕は世間の決まり通り、みちよさんの夫である君に謝る。だけど、僕の行動そのものに対しては矛盾も何も犯していないつもりだ」
「じゃあ」
「じゃあ、僕たち2人は世間で決めたような夫婦関係は結べないってことだね」
原文 (会話文抽出)
「君の立場から見れば、僕は君を裏切りした様に当る。怪しからん友達だと思ふだらう。左様思れても一言もない。済まない事になつた」
「すると君は自分のした事を悪いと思つてるんだね」
「無論」
「悪いと思ひながら今日迄歩を進めて来たんだね」
「左様だ。だから、此事に対して、君の僕等に与へやうとする制裁は潔よく受ける覚悟だ。今のはたゞ事実を其儘に話した丈で、君の処分の材料にする考だ」
「僕の毀損された名誉が、回復出来る様な手段が、世の中にあり得ると、君は思つてゐるのか」
「法律や社会の制裁は僕には何にもならない」
「すると君は当事者丈のうちで、名誉を回復する手段があるかと聞くんだね」
「左様さ」
「三千代さんの心機を一転して、君を元よりも倍以上に愛させる様にして、其上僕を蛇蝎の様に悪ませさへすれば幾分か償にはなる」
「夫が君の手際で出来るかい」
「出来ない」
「すると君は悪いと思つた事を今日迄発展さして置いて、猶其悪いと思ふ方針によつて、極端押して行かうとするのぢやないか」
「矛盾かも知れない。然し夫は世間の掟と定めてある夫婦関係と、自然の事実として成り上がつた夫婦関係とが一致しなかつたと云ふ矛盾なのだから仕方がない。僕は世間の掟として、三千代さんの夫たる君に詫まる。然し僕の行為其物に対しては矛盾も何も犯してゐない積だ」
「ぢや」
「ぢや、僕等二人は世間の掟に叶ふ様な夫婦関係は結べないと云ふ意見だね」