長塚節 『土』 「うむ、そんだが碌に有りもしねえ肥料ばかし…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 長塚節 『土』

現代語化

「うん、でもろくにない肥料ばっかり使ってるんだよ」
「お前が植えたんじゃないの?」
「いや、おじいちゃんがあちこちから持ってきたの。去年はそれだけでもそこのあたりにとうもろこしくらいできたんだけど、これだと邪魔だとも言わないし」
「私はしばらく来てなかったから知らなかったけど、野田から引っ越してきたんだね」
「うん、もう2年になるよ」
「ずいぶん年寄りだけど丈夫なんだね」
「丈夫なことにはすごく丈夫だけど、自分の好きなことしかやらないんだ。辺りをふらついて小遣い銭くらいは稼いでるようだけど」
「じゃあ忙しい時には手伝ってもらえるといいね」
「一人もいないから手伝ってほしいと思うけど、それからは、こちらもお世話になってるし」
「たしかにそう言えば働き盛りの頃でも、私が知るようになってからは仕事は上手で言うとおりにやってくれるんだけど、好きではないみたいだったよ」
「そこは違うんだ。私と一緒にいるのが嫌なんだよ。別々になってしまったな。つまらない。余計なお金を使って、私も大変な手間をかけて。私のおじいちゃんさえ少しそのつもりで行ってくれれば、いくらでも面倒を見るって言ってるのに、どんな考えなのか私には分からない」
「じゃあ、この近くの小屋はどうなの? 私がさっき見た時は肥料小屋かと思ってたよ。本当にこんなところに酔狂な話を。世の中を生きていれば誰でも同じこと。相続人に嫌な思いをさせないようにしなきゃ終われないよ。でもそれも性質だから。他からどうこうできるものではないよ」
「私だって一人増えれば増えた分だけ麦や米の心配をしないわけにいかないんだから、そのつもりでいてくれないと、これで気持ちはあまり面白くないよ。毎日、苦虫を噛み潰したような顔ばかりされてると嫌になるよ、本当に」
「それはそうさ。他人でさえも優しい言葉をかけられると、後から欲しくなるような気持ちになるものだよ」

原文 (会話文抽出)

「うむ、そんだが碌に有りもしねえ肥料ばかし使あれて」
「おめえ植ゑたんぢやねえのか」
「なあに爺樣そつちこつちから持つて來て植ゑたてたのよ、去年はそんでも其處らへ玉蜀黍位作れたつけが、此れ、邪魔だとも云はんねえしなあ」
「俺ら暫く來ねえから知らなかつたつけが、そんでも野田から引つこんでか」
「うむ、はあ二年に成らえ」
「餘つ程の年齡だつぺが丈夫けえそんでも」
「丈夫なこたあ、魂消る程丈夫だが何でも自分の好きなら働く容子で、其處らほうつき歩いちや小遣錢位はとつてんだな鹽梅しきが」
「そんぢや忙しい時にやちつたあ手傳つて貰へてよかんべな」
「なんだら一つ手傳あなんちや有りやしめえし、それからはあ、此方も頼んもしねえが」
「尤もさういへば壯の頃でも俺らあ知つてからは仕事は上手で行ると出しちやみつしら行る樣だつけが、好きぢやねえ鹽梅だつけのさな」
「其れ處ぢやねえや、俺らと一緒に居んのせえ厭なんだんべが、別々に成つちやつたな、つまんねえ、餘計な錢なんぞ遣つて、俺らだつて大えこと手間打つこんだな、なあに俺ら爺樣せえちつと其積で行つて呉れせえすりや、幾らでも面倒見るつちつてんだが、如何いふ料簡のもんだか俺らがにや分んねえが」
「そんぢや、此の側な小屋ぢやあんめえ、俺ら先刻見た時や肥料小屋だとばかし思つてたな、本當にかうだ處へ醉狂な噺よな、なんでも世を渡しちや誰でも同じこと相續人の氣味惡くしねえ樣にやんなくつちや畢へねえよ、そんだがそれも性分でなあ、他からぢやしやうねえものよ」
「俺らだつてこんで一人殖えちや殖えた丈に麥米の心配からして掛んなくつちやなんねえんだから、其の積で居てくんなくつちや、此んで心持ぢや餘り面白かねえかんな、毎日苦蟲喰つ潰したやうな面つきばかしされたんぢや厭んなつちまあぞ、本當に」
「そりやさうにも何にもよ、他人でせえこんで軟けえ言辭でも掛けられつと、後ぢや欲しく成るやうな物でも出す料簡にもなるもんだかんなあ」


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