芥川龍之介 『忠義』 「佐渡殿の云われた事は、承知の上での頼みじ…

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青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『忠義』

現代語化

「佐渡守殿のおっしゃったことは、承知の上での頼みです」
「登城を許せば、あなたが一門衆から不興を買うことも、私はよく分かっていますが、よく考えてみてください。私は一門衆はもちろん、家来からも見放された乱心者です」
「世間からは嘲笑され、家督は他人の手に渡る。天道の光さえも、私には照らさないだろうと思うほどの身の上です。そんな私が、今生の願いとしてただ一度だけ、出勤したいと言っているのを、それを拒むような宇佐衛門ではないでしょう。宇佐衛門なら、この私を哀れと思うはずだ憎くは思わないはずだ。私は、宇佐衛門を親とも思っています。兄弟とも思っています。親兄弟以上に、もっと親しみを持っています。広い世界の中で、私が頼りにしてるのは、あなただけなんです。だからこそ、無理な頼みもします。でも、これも決して一生に二度とは言いません。ただ、今度一度だけなんです。宇佐衛門、どうか私の気持ちを察してください。どうかこの無理を許してください。さあ、どうぞ」
「手を上げてください。手を上げてください。おそれ多いことです」

原文 (会話文抽出)

「佐渡殿の云われた事は、承知の上での頼みじゃ。」
「登城を許せば、その方が、一門衆の不興をうける事も、修理は、よう存じているが、思うて見い。修理は一門衆はもとより、家来にも見離された乱心者じゃ。」
「世の嘲りはうける。家督は人の手に渡す。天道の光さえ、修理にはささぬかと思うような身の上じゃ。その修理が、今生の望にただ一度、出仕したいと云う、それをこばむような宇左衛門ではあるまい。宇左衛門なら、この修理を、あわれとこそ思え、憎いとは思わぬ筈じゃ。修理は、宇左衛門を親とも思う。兄弟とも思う。親兄弟よりも、猶更なつかしいものと思う。広い世界に、修理がたのみに思うのは、ただその方一人きりじゃ。さればこそ、無理な頼みもする。が、これも決して、一生に二度とは云わぬ。ただ、今度一度だけじゃ。宇左衛門、どうかこの心を察してくれい。どうかこの無理を許してくれい。これ、この通りじゃ。」
「御手をおあげ下さいまし。御手をおあげ下さいまし。勿体のうございます。」


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