中里介山 『大菩薩峠』 「ともかく、本道へ戻ろうではござりませぬか…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「「ともかく、本線に戻りましょう」」
「「まあまあ、もう少し休んでください。どうせ日が暮れるまでに越えられる峠じゃないですよ。八州の人が引き返してきたら、今度は抜け道もなくなっちゃいますから。もう少し休んでください」」
「「あ……」」
「「そんなに驚くことはないですよ、お侍さん。あなたは男の格好をしてるけど、本当は女でしょ」」
「「そんなことはない」」
「「ダメです。私は道中師です。旅をする人のことは全部見抜けるんですから、隠しても無駄ですよ」」
「「隠してないよ」」
「「それ、それ、隠してるんですよ。あなたは男じゃないって言うけど、これ……」」
「「失礼な」」
「「ははは、あなたが男でも女でも、どうでもいいですよ。安心してください。でも、お供をしてるからには、本当のことを知っておかないとうまく立ち回れないんです」」
「「もう、雨も小降りになったみたいだから、早く本線に戻りましょう」」
「「まあ、もう少し休んでくださいよ。ところで、女なのにどうして1人で旅してるんですか。聞いてもいいですか。状況によっては、男の私でもできる限りお手伝いしますよ」」
「「さあ、早くあっちに行きましょう」」
「「いいじゃないですか。私が聞くのは、あなたをどこかに見たことがあるからです」」
「「え」」
「「たしか、甲府の神尾主膳様のお屋敷であなたを見かけたと思います」」
「「知らない、知らない」」
「「あなたには知らないと言いますが、私は主膳様とも親しいですし、それから、あなたの伯母さんとかお師匠さんとかのお絹さんとも仲がいいんです。間違ってたらごめんなさいね。確か、お松さんという方が、あなたと同じ人だったんですよ」」
「「どうしてそれが分かるの」」
「「がんりきの百蔵と言えば、あなたに近い人はみんな分かると思いますよ」」
「「ああ、それなら仕方ないな」」

原文 (会話文抽出)

「ともかく、本道へ戻ろうではござりませぬか」
「まあようござんす、まあ休んでおいでなさいまし、どんなことをしたからと言ったって、日のあるうちに越せねえ峠じゃあございませんや、八州のお方が立戻ってでも来ようものなら、今度はちょっと抜け道がねえのでございます、もう少し休んでいらっしゃいまし」
「あれ――」
「そんなに吃驚なさることはござんすまい、お武家様、あなたは男の姿をしておいでなさるけれど、実は女でございましょう」
「左様なものではない」
「いけません、わっしは道中師でございます、旅をなさるお方の一から十まで、ちゃあんと睨んで少しの外れもないんでございますから、お隠しなすっても駄目でございます」
「隠すことはない」
「それ、それがお隠しなさるんでございます、あなた様は女でないとおっしゃっても、これが……」
「無礼をするとようしゃはせぬ」
「ははは、たとえあなた様が男でござりましょうとも、女でいらっしゃいましょうとも、それをどうしようというわっしどもではございませぬ、御安心下さいまし。しかし、こうしてお伴になってみるというと、その本当のところを確めておいておもらい申さぬと、臨機のかけひきというやつがうまくいかねえんでございますから」
「もう、雨も小歇みになった様子、早く本道へ戻りましょう」
「まあ、もう少しお休みなさいませ。いったい、あなた様は女の身で……どうしてまた、わざわざ一人旅をなさるんでございます、それをお聞き申したいんでございますがね。次第によっては、これでも男の端くれ、ずいぶんお力になって上げない限りもございません」
「さあ、早くあちらへ参ろう」
「まあ、よろしいじゃあございませんか、私がこうしてお聞き申すのは、実は、あなた様をどこぞでお見受け申したことがあるからでございます」
「えッ」
「たしか、あなた様を甲府の神尾主膳様のお邸のうちで、お見かけ申したことがあるように存じておりまする」
「知らぬ、知らぬ」
「あなた様は知らぬとおっしゃいますけれど、私の方では、あなた様の御主人の神尾様にも御懇意に願っておりまするし、それから、あなた様の伯母さんだかお師匠さんだか存じませんが、あのお絹さんというのは、かくべつ御懇意なんでございます、間違ったら御免下さいまし、そのお内で、たしかお松様とおっしゃるのが、あなた様にそのままのお方でございましたよ」
「どうしてそれを」
「がんりきの百蔵と言ってお聞きになれば、あなた様のお近づきの人はみんな、なるほどと御承知をなさるでございましょう」
「ああ、それではぜひもない」


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