中里介山 『大菩薩峠』 「どこへかおいであそばしたの」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「どこに行ってたんですか?」
「そこらまで」
「一人ですか?」
「一人」
「何の用事があったんですか?」
「眠れなかったから歩いてた」
「それなら、私を起こせばよかったのに」
「よく寝てるみたいだったから、起こすのも悪くて」
「そんなことないです」
「ああ、喉乾いた。水一杯飲みたいな」
「お待ちください。今持ってきますから」
「まだ火があるから」
「お銀さん」
「紙があったはず。それから筆と墨と」
「何か書きますの?」
「私が書いてあげます。用件を言ってください」
「えーと、その紙で帳面を作ってほしい。半紙を横に折って長く逆綴にして」
「横に折って長く逆綴に?それで何にするんですか?」
「逆綴っていうのは、お葬式とかの時にするもんでしょう」
「死んだ人へ供養するためにするんです」
「供養のために?」
「今日は何日だっけ?」
「2月14日」
「じゃあ、そこへ初めに「2月14日の夜」って書く……」
「「2月14日の夜」と書きました」
「その次へ、「甲州八幡村にて」と……」
「はい、「甲州八幡村にて」」
「その次へ、ちょっと改行して、「名の知れぬ女」って書いて」
「「名の知れぬ女」」
「「十八歳」って小さく」
「これでいいですか?」
「まだ……左の胸の下と」
「左の胸の下、それで?」
「それでいい」
「これがどうして供養になるんですか?」
「今夜、俺が出かけたことは誰にも言うなよ。この後はそういうことだ」
「あなたを一人歩かせたのは、私の罪ですから」
「寝よう」

原文 (会話文抽出)

「どこへかおいであそばしたの」
「ついそこまで」
「お一人で?」
「一人で」
「何の御用に」
「眠れないから歩いて来た」
「そんなら、わたしをお起しなさればよいに」
「あまりよく寝ている故、起すも気の毒と思って」
「そんなことはございません」
「ああ、咽喉が乾いた、水が一杯飲みたいものだ」
「お待ちなさい、いま上げますから」
「まだお火がありますから」
「お銀どの」
「紙があったはず、それから筆と墨と」
「何かお書きなさるの」
「わたしが書いて上げましょう、用向きをおっしゃって下さい」
「ええと、その紙で帳面をこしらえてもらいたい、半紙を横に折って長く逆綴にしてもらいたい」
「横に折って長く逆綴に? そうして何にするのでございます」
「逆綴というのは、これはお葬いやなにかの時にするものでございましょう」
「死んだ人へ供養のためにするのじゃ」
「供養のために?」
「今日の日は何日であったろう」
「二月の十四日」
「それでは、そこへ初筆に二月十四日の夜と書いて……」
「二月十四日の夜、と書きました」
「その次へ、甲州八幡村にてと……」
「はい、甲州八幡村にて」
「その次へ、少し頭を下げて、名の知れぬ女と書いて」
「名の知れぬ女」
「十八歳と小さく」
「これだけでよろしいのでございますか」
「まだ……左の乳の下と」
「左の乳の下、それから?」
「それでよろしい」
「これがどうして供養になるのでございます」
「今夜、拙者が外出したことは誰にも語らぬように。この後とてもその通り」
「あなたを一人歩きさせたのは、わたしの罪でございますもの」
「寝よう」


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