中里介山 『大菩薩峠』 「お前は小泉という家を知っているか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「お前に小泉って家を知ってるか?」
「はい……」
「それはどこだ?」
「小泉の旦那様は……」
「小泉の旦那のことを聞いてるんじゃない。小泉の家にお浜って女がいたはずだ。それをお前知ってるか?」
「小泉のお浜様は……もうあのお家にはいらっしゃいません」
「どこに行った?」
「嫁に行きました」
「それから?」
「それ以降のことは知りません」
「知らないわけあるまい」
「知りません」
「人の噂ではそれをどう言ってる?」
「人の噂では……」
「落ち着いて、人の噂の通りを教えてくれ」
「人の噂では、お浜様はよくない死に方をしたそうです」
「よくない死に方ってどういうこと?」
「悪い奴に殺されたんだって村では噂してますけど、私はそんなこと知りません」
「悪い奴に殺されたと?どこで……」
「はい、お江戸で殺されて、骨になったのを、こっそりこの村に届けた人がいて、それでお浜様の幽霊が出るんだって若い衆が言ってますけど、私は何も知りませんから、どうか許してください」
「お前はどこの娘だ?」
「私は……」
「お前の歳は?」
「十八です。助けてください」
「十八……それで名前は?」
「名前なんて言うほどのものじゃありません」
「今水車小屋にいた若い男はあれ、お前の兄弟か、亭主か?」
「あれは新作さんです」
「新作ってのは?」
「この村の若い者」
「お前はあの男が可愛いのか?」
「ええ、あの人は将来私と一緒になる人……」
「うん、私はこの通り目が見えないけど、感でわかる。お前は可愛い娘らしい。お前に可愛がられる若い男は幸せ者だな」
「あなたは、私をどうなさるんですか?」
「小泉のお浜を殺ったのは私だ」
「え、え!」
「その供養のために、お前を頼むんだ」
「ああ怖い」
「これから、私が差してる刀に血が乾いたら、私の命が尽きた時だ」
「私を殺すんですか?私をなぜ殺すんですか?今死んだら新作さんに済みません」
「それは私の知ったことじゃない。そうしないと、お浜への供養が済まない」
「あれ!」
「斬ってしまえば楽だけど、これはお浜への供養の血だ」
「苦しい!」
「存分に苦しめ」
「ああ苦しい!」

原文 (会話文抽出)

「お前は小泉という家を知っているか」
「はい……」
「それはどこだ」
「小泉の旦那様は……」
「小泉の主人を尋ねるのではない、小泉の家にお浜という女があったはず、それをお前は知っているか」
「小泉のお浜様は……もうあのお家にはおいでがございません」
「どこへ行った」
「お嫁入りをなさいました」
「それから?」
「それからのことは存じませぬ」
「知らぬということはあるまい」
「存じませぬ」
「人の噂ではそれをなんと言っている」
「人の噂では……」
「気を落つけて、人の噂をしている通りを、わしに聞かしてくれ」
「人の噂では、お浜様はよくない死に方をなされたそうでございます」
「よくない死に方とは?」
「悪い奴に殺されたのだなんぞと、村では噂をしているものもありますけれど、わたしはそんなことは知りませぬ」
「悪い奴に殺されたと? どこで……」
「はい、お江戸とやらで殺されて、骨になったのを、こっそりとこの村へ届けた人があって、それでお浜様の幽霊が出るなんぞと若い衆が言っていますけれど、わたしなんぞは何も存じませんから、どうか御免なすって下さいまし」
「お前はどこの娘だ」
「わたしは……」
「お前の歳は?」
「十八でございます、助けて下さいまし」
「十八……それで名は?」
「名前なんか申し上げるようなものではございません」
「いま水車小屋にいた若い男はありゃ、お前の兄弟か、亭主か」
「あれは新作さんでございます」
「新作というのは?」
「この村の若い者」
「お前はあの男を可愛いと思うか」
「それは、あの人はゆくゆくわたしと一緒になる人……」
「うむ、わしはこの通り眼が見えないけれど、感で見ると、お前は可愛い娘らしい、お前に可愛がられる若い男は仕合せ者じゃ」
「あなた様は、わたしをどうなさるんでございます」
「小泉のお浜を殺したのは拙者だ」
「エ、エ!」
「その供養のために、お前を頼むのだ」
「ああ怖い」
「これから後、拙者の差している刀に血の乾いた時は、拙者の命の絶えた時じゃ」
「わたしを殺すのでございますか、わたしをなぜ殺すんでございます、いま死んでは新作さんに済みませぬ」
「それは拙者の知ったことでない、こうせねばお浜への供養が済まぬ」
「あれ!」
「斬ってしまえば雑作はないけれど、これはお浜へ供養の血」
「苦しい!」
「存分に苦しがれ」
「ああ苦しい!」


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