中里介山 『大菩薩峠』 「そこにお仏壇がありまする、その中に、妙な…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「仏壇があるんだけど、中に妙な戒名の位牌が一つだけ入ってるの。なんでこんな戒名にしたのか、私には全然わかんなかった」
「何て書いてあるんだ?」
「「悪女大姉」って書いてあるの」
「「悪女大姉」?どういう字?」
「「悪」は善悪の悪、「女」は女の字」
「なるほど、「悪女大姉」。確かに妙な戒名だな」
「本当に嫌な戒名よね」
「戒名には、普通ありがたい字をつけるもんなのに」
「それが「悪女」なんてありえないでしょ?死んだ後まで、位牌に「悪女」って書かれる女って、よっぽど悪いことしたんだろうね」
「誰かが悪ふざけしたんじゃないの?」
「そうじゃないの。ちゃんと位牌にそう書いてあるのよ」
「ふーん」
「もし我が子だったら親が黙ってないでしょ?妻だったら夫が「悪女」って戒名つけられて黙ってるわけないでしょ」
「どうもしっくりこない。読み間違えじゃないのかい?」
「そうじゃない」
「「悪」の字が、例えば「慈」とか「悲」とかに見えるんじゃないの?」
「そうじゃない」
「「慈女大姉」、「悲女大姉」ならありそうな戒名だけど、わざわざ「悪女」ってつける人はいないだろう。それはあなたの読み間違えに違いない」
「そうじゃない。確かに」
「だったら、もう一度見に行きましょう」

原文 (会話文抽出)

「そこにお仏壇がありまする、その中に、妙な戒名を書いたお位牌がたった一つだけ入れてありました、何のつもりで、あんな戒名をつけたのだか、わたしにはどうしてもわかりませぬ」
「何という戒名」
「悪女大姉というのでございます」
「悪女大姉? どういう文字が書いてあります」
「悪というのは善悪の悪でございます、女というのは女という字」
「なるほど、悪女大姉、それは妙な戒名じゃ」
「ほんとにいやな戒名ではござんせぬか」
「戒名には、つとめて有難がりそうな文字をつけるのに」
「それが悪女とはどうでございます、死んだ後まで、悪女と位牌に書かれる女は、よほどの悪いことをしたのでございましょう」
「誰かの悪戯だろう」
「いいえ、そうではございませぬ、立派な位牌にその通り記してあるのでございます」
「はて」
「もしわが子ならば親が無言ってはおりますまい、妻ならば夫たる人が、悪女と戒名をつけられて無言っていよう道理がございませぬ」
「どうも解せぬ、読み違えではないか」
「いいえ」
「その悪女の悪という字が、たとえば慈とか悲とかいう文字が、墨のかげんでそう見えるのではないか」
「そうではございませぬ」
「慈女大姉、悲女大姉、その辺ならばありそうな戒名だが、好んで悪女と附ける者はなかろう、それは御身の読み違えに相違ない」
「いいえ、確かに」
「そんならば、もう一度見て参りましょう」


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