GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』
現代語化
「これじゃ外に出られないな」
「たとえ捕り手に囲まれてなくても、このまま逃げおおせるのは無理だ。山野を走り回れば、飢えと疲れが限界に来て、結局みっともない姿で捕まることになる。どっちにしろ袋のネズミだ。と言って、手を縛って捕まるのもバカげてる。窮鼠が猫をかむってわけじゃないけど、非常事態には非常手段しかない。その非常手段ってのが、ここに逃げ込んだ縁で、何者なのか知らないけどこの家の主人を起こして、窮地の相談を持ちかけるんだ」
「窮地の相談って?」
「しばらくの間、俺たちをかくまってもらって、事情を説明して助けてもらえないか頼んでみるんだ」
「でも、聞いてくれなかったら?」
「その時は、俺だけをかくまってもらって、俺たちは路銀と服を借りて普通に逃げるんだ」
「それでもダメだった時は?」
「その時は残念だけど、最後の手段しかない。最後ってのは血を見ることだ」
「わかった。その覚悟でやろう。この家の主人はどこで寝てる?他の奴らは気にしないで、用心深く忍び込んで、主人の寝室に切り込むんだ」
「よし、準備しよう。何か武器はないか?あたりを探してみろ」
「おい、宇津木、聞いてたろ?さっき話したとおり、俺たちは今から非常手段に出る。上手くいけばいいけど、多分上手くいかないと思う。失敗したらそれまでだ。斬り殺されるか、逃げるか二択だ。当然、お前にも追手が来るかもしれない。とにかく、ここで待機してろ。お前は病気だし、もともと何も罪はないんだから。追手が来たら、寝てる間に連れ出されたって言い張れ。そうすれば理屈もクソもない。俺たちが抜け出せたら、明日にも助けに行く。どっちにしろ、落ち着いて寝てることが大事だ」
原文 (会話文抽出)
「なるほど」
「これでは、外へ出られぬ」
「よしや、斯様に捕方に囲まれずとも、このままで逃げ了せるものではない、山野を駈けめぐっているうちに、飢えと疲れが眼の前へ来て、やがて見苦しいザマで引戻されるにきまっている、どちらにしても袋の鼠になってしまったのだ。と言うて手を束ねて捕われるのも愚な話、窮鼠かえって猫を噛むというわけではないが、時にとっての非常手段を試みるよりほかはない。その非常手段というのは、ここへ逃げ込んだのが縁、何者か知らないが当家の主人を叩き起し、手詰の談判をしてみるのだ」
「手詰の談判というのは?」
「当分の間、我々を当家にかくまってくれるように、事をわけて歎願してみるのじゃ」
「しかし、それを聞き入れてくれぬ時には?」
「その時には、この宇津木だけを当家にかくまってくれるように頼み、我々は相当の路用と衣類とを借用して尋常に逃げてみるのだ」
「もしまた、それを聞き入れなかったその時には?」
「その時には気の毒ながら、最後の手段を取るよりほかはない、最後というのは血を見ることだ」
「よろしい、その決心で働こう。当家の主人という者はどこに寝ている、ほかの者には取合わず、まず用心して忍び、その主人の寝間を突留めねばならぬ」
「さあ、その用意をしろ、何か得物はないか、あたりを探してみるがよい」
「おい、宇津木、聞いていたろう、いま話したようなわけで我々は、これから非常手段の実行にかかるのじゃ。うまくいけばよいけれど、多分うまくはいくまいと思う。仕損じたらそれまでだ、我々は斬死するか、或いは身を以て逃れるか二つに一つじゃ。自然、君にも充分に手が届かぬかも知れぬ。ともかく、君はこうして待っていろ、病気でもあるし、本来、君には何の罪もないのじゃ、君を捕えに来たものがあったら、その時、この場でよく申し開きをするがよい。いいか、眠っているうちに何者にか連れ出されたと、こう言ってしまえば理も非もない。また我々が首尾よく抜け出しさえすれば、明日とも言わず迎えの工夫をする、どっちにしても落着いて寝ていることが肝腎じゃ」