中里介山 『大菩薩峠』 「実は、おれも弱っているのだ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「実は、俺も困ってるんだ」
「あの贋金使いが全部手配して、山に逃げれば服も食べ物も用意してある、すぐに信州に逃げられるようになってるって言うから、信じてたんだ。あの贋金使いってのは気の利く奴だから、信じて間違いないと思ってた。実際、間違ってなかったんだろうけど、途中で犬に吠えられたのが運の尽きでこうなっちまった。これから先どうすればいいのか、俺にも全く見当がつかない。五十嵐、お前になんか考えがあるなら聞かせてもらえないか」
「お前に考えがなさそうなのに、俺に考えがあるわけないだろ。とにかく、頼みにしてた贋金使いとはぐれたのが運の尽きだよ。悪い時に悪い犬が出てきて邪魔をしたのが腹立たしい」
「突然、闇と霧の中から猛犬が飛び出してきて、俺たちに襲いかかるんじゃなくて、贋金使いに襲いかかったんだ。贋金使いも身のこなしが軽かったけど、犬に驚いたのか逃げ出したみたい。犬が追いかけてって、どっちも音沙汰なしだ。声を出して呼べないのに、後を追いかけるにもこの闇だし。そのうち前後左右から捕手の「破牢!破牢!」って声が聞こえてきてさ。それをくぐり抜けて、やっとここまで逃げ込んだけど、これだって鮫やワニが出そうな川で息を潜んでるようなもんと同じだ」
「だから、いつまでもこうしていられない。まだ夜が明けないうちに、この霧と闇が深いうちに、ここを逃げ出すしかないだろう。どうしようもないから、この部屋に金銀があれば金銀、服があれば服、刀があれば刀、そういうものを借りて出ようぜ」
「ちょっと待て。外の様子を聞いてみよう」

原文 (会話文抽出)

「実は、おれも弱っているのだ」
「あの贋金使いが万事を取りしきって、山へ逃げさえすれば、衣裳も着物も用意がしてある、食糧も充分で、直ぐに信州路へ立退くようにしてあると言うから、それを信用していたのだ。あの贋金使いという奴は心の利いた奴だから、それを信用して間違いないと思っていた、また事実、間違いはなかったのだろうけれど、途中で犬に吠えられたのが運の尽きでこんなことになってしまった。これから先はどうと言うて、拙者にもいっこう考えがつかぬ、五十嵐、君に何か思案があらば聞こうではないか」
「君に思案のないものを拙者において思案のあろうはずがない、ともかくも杖と頼んだあの贋金使いとハグれたのが我々の不運じゃ、悪い時に悪い犬めが出て来て邪魔をしたのがいまいましい」
「闇と靄との中から不意に一頭の猛犬が現われて出て、我々には飛びかからず、あの贋金使いに飛びかかった、贋金使いも身の軽い奴であったが、あの犬には驚いたと見えて逃げたようだ、それを犬が追いかけて行ったきり、どちらも音沙汰がない、声を立てて呼ぶわけにはいかず、跡を追いかけるにもこの通りの闇、そのうち前後左右には破牢! 破牢! という捕手の声だ、それを潜って、やっとここへ忍び込んだけれど、これとても鮫鰐の淵の中で息を吐いているのと同じことだ」
「さあそれだから、いつまでもこうしてはいられぬ、まだ夜の明けぬうち、この靄と闇との深いうち、ここを逃げ出すよりほかに手段はあるまい。この場合ぜひもないから、この室に金銀があらば金銀、衣服があらば衣服、大小があらば大小、それらのものを借受けて出立致そうではないか」
「待て待て、外の様子に耳を傾けてみるがいい」


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