中里介山 『大菩薩峠』 「殿様、それでも……あの、奥方様がこちらへ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「殿様、それで……奥様がここに来られたら、俺はどーすればいいんですか?」
「なんの奥だ?あれは病気で、もう治る見込みはない」
「かわいそうでござんす。なんとか治してあげたいんです」
「治してやりたいけど、病気も重いし元々弱い体で……」
「きっと病気の間も、殿様のことばっかり心配してらっしゃるんでしょう。それで余計に具合が悪くなるんでしょ。お気の毒でなりません」
「あれは意外に冷たい女だ――自分の病気のことや、俺たちのことも、それほど心配してねえ。頭のいい女で、物の判断はできるんだけど……」
「どうしてそんなことがあるんですか?奥様は殿様のこと、すごく恋しがってらっしゃるはずです」
「いや、あいつは恋を知らない。恋よりもっとすごいものがあるんだ……それはあいつのせいじゃなくて、公家の家に育ったせいだ。いや、せいじゃない。それが正しい女なんだろうけど」
「殿様、奥様のご身分と、俺の身分は……違いますよね?」
「それは違うだろうが」
「奥様の実家は?」
「さきほど言った通り、公家の生まれだ」
「公家のお生まれって?」
「つまりすごい家ってことだ。公卿の家だ」
「えっ、あのお公卿様、天皇様に仕えてらっしゃるお公卿様が、奥様のご実家ですか?」
「父親は准大臣で従一位の位。兄は三位、弟は従五位下の兵衛権佐だ。そんな家で育った女で、家柄も生い立ちも何も言うことはないんだが……」

原文 (会話文抽出)

「殿様、それでも……あの、奥方様がこちらへおいでになりました時は、わたくしの身はどう致したらよろしいでござりましょう」
「ナニ奥が? あれは病気で、とても、もう癒るまい」
「おかわいそうなことでござりまする、どうぞお癒し申して上げたいことでござりまする」
「癒してやりたいけれども、病が重い上に天性あのような繊弱い身で……」
「さだめて御病気中も、お殿様のことばかり御心配あそばしてでござりましょう、それがためによけい、お身体にも障るのでござりましょうから、おいとしうてなりませぬ」
「あれは存外冷たい女である――自分の病のことも、我等が身の上のことも、さほどには心配しておらぬ、物の判断に明らかな賢い女ではあるけれど……」
「どうして左様なことがありますものでござりましょう、奥方様は、どんなにか殿様を恋しがっておいであそばしますことやら」
「いやいや、あの女は恋ということを知らぬ、恋よりも一層高いものを知っているけれど……それはあの女の罪ではなくて堂上に育った過ちじゃ、過ちではない、それが正しい女であろうけれども」
「殿様、奥方様の御身分と、わたくしの身分とは……違うのでござりまする」
「それは違いもしようが」
「奥方様のお里は?」
「それはいま申す通り堂上の生れ」
「堂上のお生れと申しまするのは」
「それは雲上のこと、公卿の家じゃ」
「まあ、あのお公卿様、禁裏様にお附きあそばすお公卿様が、奥方様のお里方なのでござりまするか」
「父は准大臣で従一位の家、兄に三位、弟には従五位下の兵衛権佐がある。その中で育った女、氏と生れとには不足がないけれど……」


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