中里介山 『大菩薩峠』 「神尾も、ああして置きますると我儘が募って…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「神尾も調子に乗っちゃって困るよ。俺が行ったタイミングで、この縁談をまとめたいんだって。信長様もすごく喜んでた」
「それはおめでたいことじゃないか。そんなおめでたい話に俺が異論があるわけないだろ。で、相手の家柄はどうなんだ?」
「相手は、有野村の藤原の伊太夫の一人娘だよ」
「有野村の伊太夫の娘?」
「そうだよ」
「へえ」
「そこそこ有名な家柄なんだろ?」
「そうだね。この甲州で一番ってくらい家柄がいいらしい」
「そうなのか。伊太夫は俺もよく知ってるけど、その家柄も知ってる。でも娘さんには会ったことないな」
「あんまり人前に出ない娘らしいけど、この縁談は本人から望んだんだって」
「それはいいね。この縁談の世話役は誰なんだ?」
「世話役って?」
「神尾家と藤原家はちょっと家柄が違うだろ。藤原家の娘さんが神尾家に嫁ぐなら、世話役を立てたほうがいいと思うけど」
「失礼ですが、家柄の違いってなんですか?伊太夫の家は、葛原親王以来の家柄で、権現様の前から苗字も刀も許されてたんだって。国主大名の系図にも載ってるくらいだから、神尾家にはお似合いだと思います」
「いや、そういうことじゃなくて。旗本が縁組みするときは、同じ旗本同士か、大名家と、もしくはちゃんとした世話役を立てるのが決まりだ。わかるよな?」
「それは……」
「まだそこまでは決まってないんだ……」
「そうなら、まずはそこを決めてからじゃないとまずいと思うぞ」
「ご親切にありがとうございます。主膳にも相談してみます……」

原文 (会話文抽出)

「神尾も、ああして置きますると我儘が募って困りまする、わたしが参りましたのをよい折に、ぜひこの縁談だけは纏めて帰りたいのでございまする。筑前様にも、このことを大へんおよろこび下さいました」
「それは慶たいことでござる、左様な慶たいことを何しに拙者において異議がござりましょう。して、先方のお家柄は?」
「先方は、有野村の藤原の伊太夫の一の娘にござりまする」
「有野村の伊太夫の娘?」
「左様でござりまする」
「なるほど」
「あれは聞ゆる旧家でありましたな」
「仰せの通り、家柄では多分、この甲州に並ぶ者がなかろうとのことでござりまする」
「その通り、伊太夫は拙者もよく存知の間柄、その家柄もよく承っているが、その息女にはまだお目にかからぬ」
「常には、あまり人中へ出ることさえ嫌うような娘でありましたが、このたびの縁談は、その当人が進みましたものでござりまする」
「それは何よりのこと。この縁談の仮親はどなたでござりまするな」
「仮親と仰せられまするのは?」
「神尾家と藤原家とには聊か家格に違いがござるようじゃ、藤原家の息女が神尾家へ御縁組み致すには、仮親をお立てなさるが順序と考えられるが」
「恐れながら、家格の違いと仰せでござりまするが、あの伊太夫が家は、御承知の通り、葛原親王いらいの家柄と申すことでござりまする、それに権現様以前より苗字帯刀は御免、国主大名の系図にも劣らぬ家柄でござりまする故に、神尾家にとって釣合わぬ格式とは存じませぬ」
「いやいや、そのことではない。およそ旗本の家が縁組みをするには、同じ旗本のうちか、或いは大名の家よりするか、さもなき時はしかるべき仮親を立てるが定め、その辺は御承知でござりましょうな」
「それは……」
「まだそれまでには運んでおらぬのでござりまする……」
「左様ならば取敢ず、そのことをお取定めあってしかるべく存じまする」
「御親切のお心添えを有難く存じまする、よく主膳にも申し聞けました上で……」


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