中里介山 『大菩薩峠』 「御別家様、まず以て滞りなく運びましてお慶…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「お義母さん、まず滞りなく進んだおめでとうございます。ご結納はこの12月のうちに日取りを決めて、ご婚礼は来年の春に盛大に行われます」
「お前の仲介でうまくいった、これで私もわざわざ甲府まで来た甲斐があったというものだ、主膳殿もこれから身持ちが改まって出世するだろう、三方四方めでたいことだ」
「本当にめでたいことです。なにしろ、向こうが由緒正しい旧家の家柄なので、ご本人が気難しいもので、どうなることかと心配していましたが、幸運なことに、ご本人が乗り気になって、それで話がどんどん進みました……しかしお義母さん」
「何です?」
「仲人はどなたにお願いされますか」
「それは……あの支配のお二人の中から、筑前様か能登様にお願いするよりほかはあるまいと思っています。また組頭や奉行衆の中で適任の方がいれば、そちらにお願いしても構いません」
「そうですか、組頭やお奉行衆の中で……それも結構ですが、ご当家様のご仲人としては、やはり支配様にお願いするのが順当でしょう。その支配様と申しましても、能登様はご新任の上にご年齢も若いし、奥様もいらっしゃらないので、やはりご年季と申し、お二人のお揃いと申し、筑前様にお願いするのが最も良いように思います」
「私もそう思います。それに主膳殿は能登様とは合いません」
「そうですか……」
「もともと格式が同じ旗本で、同じ職場にいると、若い同士でどうも気を使って困ります」
「しかし能登様にも、一応のご挨拶は申し上げないと」
「それは筑前様の方を、よくよくお願いしておいて、ご縁談を決めた後で能登様には一通りのご挨拶だけにしておきたいと、主膳殿も申しておりました」
「そうですか……そうでないと能登様もなかなか納得できないところがあるので、万一、この縁談に……そんなこともないとは思いますが、能登様から反対が出るようなことがあれば……」
「それだから、最初に筑前様の方をまとめておけばよいではないですか。その筑前様への使者は、私が行って、きっとまとめてきましょう」
「そうしていただければ大丈夫です、お義母様からの懇ろなご依頼であれば、大丈夫です」
「まあ、いいではないか、前祝いにお祝いを差し上げたいもの……お松や、お松はいないかい」
「こちらへお入りください」
「これはこれははじめまして、わたくしが市五郎でございます、どうぞよろしくお願いいたします」
「不慣れなものでございます、なにぶんよろしくお願いいたします……」

原文 (会話文抽出)

「御別家様、まず以て滞りなく運びましてお慶とう存じまする。御結納はこの暮のうちに日を択んでお取交しなさいますように。お婚礼は来春になりまして花々しく」
「お前さんの橋渡しで都合がよく運びました、これでわたしもワザワザ甲府へ来た甲斐があると申すもの、主膳殿もこれから身持ちが改まって出世をすることでしょう、三方四方慶たいこと」
「まことにハヤ慶たいことで。なにしろ、先方が聞えた旧弊の家柄でございますのに、当人がまたばかに気むずかしいものでございますから、どうなることかと心配しておりましたが、幸いなことに、その当人が乗気になりまして、それで話がズンズンと進んで参りました……しかし御別家様」
「御別家様」
「お媒妁人はどなた様にお頼みあそばしますおつもりでございますな」
「それは……あの御支配のお二方のうち、筑前様と能登様といずれかにお頼み致すよりほかはなかろうと思っておりまする。また別に組頭や奉行衆のうちにしかるべきお方があれば、その方へお頼みすることにしてもかまいませぬ」
「左様でございますな、お組頭やお奉行衆のうちで……それも結構でございますが、御当家様のお媒妁としては、やはり御支配様をお頼みになるのが順当でございましょう。その御支配様と申しましても、能登様は御新任の上に、お年もお若いし、それに奥方様をお連れになりませぬ故、やはりお年と申しお二方のお揃いと申し、筑前様をお頼みあそばすが至極よろしいことのように存じまする」
「わたしもそう思いまする。それに主膳殿は能登様とは合いませぬ」
「左様……」
「もとは同じぐらいの格式の旗本、それで同じところへ勤めていると、若い同士でどうも気拙くなって困ります」
「けれども能登様へも、一応のお話は申し上げませんと」
「それは筑前様の方を、よくよくお頼み申しておいて、お話をきめた上で能登様へは一通りの御挨拶だけにしておきたいと、主膳殿も申しておりました」
「左様でございますな……あれで能登様もなかなか肯かぬところがおありなさるから、万一、この縁談に……そんなこともございますまいが、能登様から故障が出るようなことがございますると……」
「それだから、最初に筑前様の方を纏めておけばよいではありませぬか。その筑前様へのお使は、わたしが行って、きっと纏めて参りましょう」
「左様ならば大丈夫でございます、御別家様から懇ろにお頼みになりますならば、大丈夫でございます」
「まあ、よいではないか、前祝いに何か差上げたいもの……お松や、お松はおらぬかいな」
「こっちへお入り」
「これはこれは初めまして、わたくしが市五郎めにござりまする、どうぞお見知り置かれて」
「行届かぬものでござりまする、なにぶんよろしく……」


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