中里介山 『大菩薩峠』 「あの、与八さん、お前のお国はどちら」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「あのさ与八さん、お国はどこ?」
「俺の生まれた場所はわかんねぇ」
「へぇ、生まれた場所がわかんないの」
「俺、捨て子なんだよ、物心つく前に捨てられたから、どこで生まれたかなんて知らねぇ」
「え、捨て子だったの……」
「そうだ、青梅街道に捨てられて、人に拾われて育ったんだよ」
「へぇ〜、それで育ての親は?」
「それはね、この玉川上水を20里くらい上った沢井って所があって、そこの机弾正って先生が拾って育ててくれたんだ」
「へぇ〜、じゃ多摩川の上の方なんだ。俺も子供の頃、そっちの方に通ったことあるよ」
「そうかね、あの街道は甲州の大菩薩峠ってのに抜ける道だ」
「大菩薩峠……」
「大菩薩峠ってのは上り下り合わせて6里くらいある、大変な道なんだ」
「ああそうなんだ、あの大菩薩には猿がいっぱいいて、頂上にはお観音様のお堂があったよな」
「お主よく知ってるな、峠を越えたことあるのか?」
「ああ、4〜5年前かな」
「4〜5年前って……じゃ俺が水車小屋にいた頃だ」
「与八さん、いつかあの大菩薩峠に、俺を連れてってよ」
「あんな山奥に?」
「俺はさ、もう一度あの峠に行きたいんだ」
「俺も実はさ、今ここで奉公してるけど、やっぱ昔の山ん中の方がいいと思って、ここ辞めて帰ろうかなと思ってたんだ」
「え、奉公が嫌になったの?」
「ああ、もう嫌になっちまった、俺には水車番の方が向いてるんだ」
「そんなこと言わないで、ずっと一緒に奉公しようよ、そして帰る時は、俺を大菩薩峠まで連れてってよ」
「お主さんにそう言われると、俺もなんだかお主さんを残してここを出るのが心苦しくなってきたよ」

原文 (会話文抽出)

「あの、与八さん、お前のお国はどちら」
「俺が生れ土地はどこだか知らねえ」
「ホホ、生れ土地を知らないの」
「俺、棄児だからな、物心を知らねえうちに打棄られただから、どこで生れたか知らねえ」
「まあ、お前さんは棄児……」
「そうだあ、青梅街道というところへ打棄られて、人に拾われて育っただから、生れ土地は知りましねえ」
「かわいそうに。そうして、育てられたのは?」
「それはね、この玉川上水を二十里も上へのぼると沢井という所がありまさあ、その沢井の机弾正という先生に拾われて育ててもらったでがす」
「それでは多摩川の上の方。わたしも子供の時分、あのへんを通ったことがありました」
「そうかね、あの街道は甲州の大菩薩峠というのへ抜ける街道だ」
「大菩薩峠……」
「大菩薩峠というのは上り下りが六里からあるで、難渋な道だ」
「ああ、そうでござんす、あの大菩薩には猿がたんといて、峠の頂上には観音様のお堂がありましたなあ」
「お前様よく知ってござるが、あの峠を越したことがおありなさるのかえ」
「エエ、四五年前に」
「四五年前……それではやっぱり俺があの水車小屋にいた時分だ」
「与八さん、いつか一度あの大菩薩峠へ、わたしをつれて行って下さいな」
「あんな山奥へかい」
「わたしは、モ一ぺんあの峠へ行ってみたい」
「俺もお前様、ほんとうの話は、この頃こちらで奉公をしているけれども、やっぱり昔の山ん中がいいと思うからお邸を暇を貰い申して帰るべえかと思ってるところでがす」
「まあお前、奉公が飽きたの」
「ああ、厭になっちまった、俺がには水車番が性に合ってるだあ」
「そんなことは言わないで、いつまでも一緒に御奉公をしていておくれ、そして帰る時には、わたしを大菩薩峠まで連れて行って下さい」
「お前様にそう言われると、俺もなんだかお前様を残してこのお邸を出かけるのが気がかりになるだ」


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