GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』
現代語化
「今日は端午の節句で、男の子のお祝いなのよ、お前も初孫だから父親に祝ってもらい、幟を立ててもらい。あたしはブスだから人形一つ買ってやることもできない」
「節句のお祝いができないから、お仏さんに線香でも上げようよ坊や、4年前に亡くなった文之丞さんにお線香をあげましょう、お前は運が悪い星の下に生まれたのね」
「浜、ちょっと待て」
「お線香をあげちゃダメですか」
「そこに座れ」
「はい」
「お前はバカだなぁ」
「はい、もともとバカな女です、バカだからこんなみじめな……」
「身を滅ぼしたのはお前だけじゃない、この竜之助も、お前のせいで身を滅ぼした、どうせなら悪縁と諦めがつかないものか」
「悪縁……もうとっくに悪縁って諦めてますよ」
「そう思えば我慢もできる、俺もお前から散々嫌味を言われ、クソみたいに扱われても、悪縁と思ってたから黙ってたんだ」
「悪縁ならそれなりに少しは華やかな暮らしもできるはずなのに、あなたと4年も一緒にいて、一度もホッとできたことがない」
「ああ、文之丞さんと一緒にいてたら」
「浜、そんなこと今さら俺の前で言えるか」
「はい、どこでも言います、今となってはあたしは文之丞さんが好きです」
「なんだって!」
「そのまま一緒にいてたら、この子にもこんなに苦労させずに済んだのに」
「うん――」
原文 (会話文抽出)
「ねえ坊や、お前さえなければお母さんはどこへでも行けるのだよ、坊やのお父様という人はねえ、お母さんに尼になれだとさ、お父さまに愛想を尽かされても、坊やがあるためにお母さんは何とも口答えができないし、出て行くところもないのだよ」
「今日は五月の五日といって、男の子のお祝いの日なのよ、坊やも初子だからお父さんに祝っておもらい、幟を立てておもらい。お母さんは器量がないから人形一つ買って上げることはできないのだよ」
「お節句のお祝いができないから、仏様に線香でも上げましょうねえ坊や、四年前の今日死んだ文之丞という人にお線香を上げてやりましょう、坊やは悪い月星の下に生れたねえ」
「これ浜、少し待て」
「お線香を上げては悪いのですか」
「そこへ坐れ」
「はい」
「お前は了見の悪い女じゃ」
「はい、もとより悪い女でござんす、悪い女なればこそこうしてみじめな……」
「身を誤ったはお前ばかりではない、この机竜之助もお前のために身を誤った、所詮、悪縁と諦めがつかぬものか」
「悪縁……もう疾うの昔に悪縁とは諦めておりますが」
「さあ、悪縁と思えば辛抱の仕様もある、わしもお前からさんざんの嫌味を並べられ、人でないようにこき下ろされても、悪縁と思えばこそ何も言わぬ」
「悪縁なら悪縁のように少しは浮いた花やかな暮しもあろうものを、お前様と添うて四年越し、ついぞホッとした息をついたことがない」
「ああ、文之丞殿と添うていたら」
「浜、そういうことが今更わしの前で言えるか」
「はい、どこでも申します、今となってわたしは文之丞が恋しい」
「ナニ!」
「あのまま添うていたら、この子にもこんな苦労をさせずに済もうものを」
「うむ――」