中里介山 『大菩薩峠』 「あの竜之助がよい見せしめ、あれも初めは見…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 中里介山 『大菩薩峠』

現代語化

「あの竜之助がいい見せしめになったな。あいつは最初のうちは有望な剣士だったんだ。私も最初のうちは喜んでいたんだが、私が病気になってからすっかり腕が落ちた」
「腕が落ちたと申しますと」
「何も知らない連中は竜之助がぐんぐん腕を上げたと評判してるそうだ。私が見てると日増しに腕が落ちてる。ああ残念だ。この体が元気だったらあいつの腕を叩き直してやろうと思って仕方なかったが、どうにもこの不自由な体では、息子を邪道に落としてしまった」
「あのような剣術では今の試合の結果になるのは目に見えていた。私はもう世の中で望むことはない。兵馬殿、どうか私の代わりに竜之助を懲らしてください」
「でも今のあなたでは、どんなに気が急いたとしても竜之助に対抗するのは難しい。修行が肝心ですよ」
「修行します。しっかり修行しますとも」
「ああ、それはよい覚悟だ。ところで、正しい修行には正しい師匠を見つけなければならない……私がその正しい剣道の師匠をあなたに紹介します。その人に弟子入りして修行なさい」
「下谷の御徒町に島田虎之助という先生がいらっしゃいます。流派は直心陰。私が若い頃から親しくさせていただいていて、今も時々交流があります。この方はまさに剣道の師範というべき達人です」
「島田虎之助先生ですか。お名前を聞いたことがあるような気がします」
「上泉伊勢守の正統を伝えたものは現代ではこの人でしょう」

原文 (会話文抽出)

「あの竜之助がよい見せしめ、あれも初めは見込みのある剣術であった、わしも最初のうちは欣んでいたが、わしが病気になって以来、すっかり術が堕ちてしまったでな」
「術が堕ちたとおっしゃるのは」
「何も知らぬ者は竜之助がメキメキ腕を上げたと評判するげな。わしが眼で見れば日増しに術が堕ちてゆく。ああ残念な、この身が丈夫であったらあの腕を叩き直してやろうものをと思わぬ日はなかったが、何を言うにもこの不自由で、みすみす倅を邪道に落した」
「あのような剣術が今日の仕儀になるは眼に見えたものじゃ、わしはもう世に望みのない身体、兵馬殿、どうか拙者になり代って竜之助を懲らして下さい」
「とは言え、今の其許では、いかに心が逸っても竜之助の向うに立つことはおぼつかない、ようござるか、修行が肝腎じゃ」
「修行します、立派に修行しませいでか」
「ああよいお覚悟じゃ。時に、正しい修行には正しい師匠を取らねばならぬ……わしがその正しい剣道の師匠を其許に推薦する、その人について修行なさるがよい」
「下谷の御徒町に島田虎之助という先生がある、流儀は直心陰、拙者が若いうちからの懇意で、今でも折々は消息をする、この人はまさに剣道の師たるべき達人じゃ」
「島田虎之助先生、お名前も承わったように覚えまする」
「上泉伊勢守の正統を伝えたものは当代にこの人であろう」


青空文庫現代語化 Home リスト