GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 徳冨健次郎 『みみずのたはこと』
現代語化
「それでそのうち無理やり嫁さんを大連の郊外に連れ出したんだ。誰もいない河原だよ。色々嫁さんを問い詰めたけど、やっぱり白状しねえ。そしたら持ってた短刀を抜いて、『白状したら許す。嘘ついたら命をもらうと思ってろ』って迫ったら、嫁さんは顔色変えて、主人に無理されて一度だけ悪いことした、って言うんだ。嘘つくな、一度二度じゃねえだろう、って詰め寄ると、とうとう全部白状しちまった」
「それから俺は主人に問い詰めの手紙を書いたんだ。そしたら次の日、主人に書斎に呼ばれて『本当にすまなかった。私が主人なのにこうやって土下座して謝るから、何とか内済にしてくれ。その代わり君の将来は必ず俺が面倒見る。絶対成功させてやる。それでとりあえず内地に帰ってくれ』って言われて、200円、そう、10円札が手で切れるくらいパリッパリの200円もらったんだ」
「君は200円もらったんだね。なんでその短刀でその男を刺さなかったの?」
「それから?」
「それから一旦内地に帰って、また大連に行った。もう主人は俺たちに関わってこない。面会もしてくれねえ」
「それで今は?」
「今は東京の端っこで、小さな雑貨屋をやってんだよ」
「細君は?」
「嫁さんは一緒にいるよ」
「一緒にいるけど、楽しくなくてモヤモヤばっかりしてしょうがねえから、それで今日は――」
原文 (会話文抽出)
「妻の眼色を読もうとしても、主人の貌色に気をつけても、唯疑念ばかりで証拠を押えることが出来ません。斯様な処に奉公するじゃないと幾度思ったか知れません。また其様妻に云ったことも一度や二度じゃありません。けれども妻は其度に腹を立てます。斯様にお世話になりながら奥様のお留守にお暇をいたゞくなんかわたしには出来ない、其様に出たければあなた一人で勝手に何処へでもお出なさい、何処ぞへ仕事を探がしに御出なさい、と突慳貪に云うンです。最早私も堪忍出来なくなりました」
「そこである日妻を無理に大連の郊外に連れ出しました。誰も居ない川原です。種々と妻を詰問しましたが、如何しても実を吐きません。其れから懐中して居た短刀をぬいて、白状するなら宥す、嘘を吐くなら命を貰うからそう思え、とかゝりますと、妻は血相を変えて、全く主人に無理されて一度済まぬ事をした、と云います。嘘を吐け、一度二度じゃあるまい、と畳みかけて責めつけると、到頭悉皆白状してしまいました」
「それから私は主人に詰問の手紙を書きました。すると翌日主人が私を書斎に呼びまして『ドウも実に済まぬ事をした。主人の俺が斯う手をついてあやまるから、何卒内済にしてくれ。其かわり君の将来は必俺が面倒を見る。屹度成功さす。これで一先ず内地に帰ってくれ』と云って、二百円、左様、手の切れる様な十円札でした、二百円呉れました」
「君は其二百円を貰ったンだね、何故其短刀で其男を刺殺さなかった?」
「それから?」
「それから一旦内地に帰って、また大連に行きました。最早主人は私達に取合いません。面会もしてくれません」
「而して今は?」
「今は東京の場末に、小さな小間物屋を出して居ます」
「細君は?」
「妻は一緒に居るのです」
「一緒に居ますが、面白くなくて/\、胸がむしゃくしゃして仕様がないものですから、それで今日は――」