徳冨健次郎 『みみずのたはこと』 「可愛いやつでした。五歳でした、女児でした…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 徳冨健次郎 『みみずのたはこと』

現代語化

「かわいかったんだよ。5歳で女児だったんだけど、よく俺になついてたんだ。田舎にいた頃も、俺が外から帰ると、母ちゃんとか嫁さんは冷たい顔してても、あの子は『じいじ、じいじ』って喜んで、帽子を取ったりとかよくしてた。俺もあの娘亡くして本当に落ち込んじゃったよ。病気は急性の肺炎で、医者に駆けつけて頼んだんだけど、来るって言いながら結局来ねえんだ。その間に息を引き取っちまった。医者はキリスト教の信者だったらしいんだけど、俺が貧乏人だからってそれでそんなひどいことしたんだろう。でもその医者もあとで子供亡くして、自分が昔そんなことしたから罰が当たったんだって懺悔したらしいよ」
「それで?」
「それで遊び呆けてるわけにもいかねえから、夫婦で会社に――そう、大連でナンバーワンかナンバーツーってくらいの大企業、大体知ってるでしょ、そこのまあ社長さんだよ、その社長さんの家に奉公することになったんだ。何しろ大連でトップクラスの会社だから、生活なんて超贅沢。使用人も俺たち夫婦の他に5、6人もいた。奥さんはいい人で、俺たちによくしてくれたよ。そしたらそのうち奧さんが用事で行っちゃったんだ。内地へ。奧さんが内地に行って2週間くらいすると、どうにも嫁さんの様子がおかしくなってきた。――嫁さんって、どう、美人かって?全然よくないよ」
「嫁さんの様子が変になった。俺も見張ってたんだけど、どうも腑に落ちねえことがいっぱいあるんだ。旦那さんが馬車で帰ってくる。2階でチャイムが鳴ると、嫁さんが真っ白なエプロンして、ビールを盆に乗せて持っていくんだ。俺は階段の下にいる。嫁さんがちらっと俺を見て、そのまま2階に上がっていく。1時間も2時間も降りてこないことがある。俺は耳を澄ませて2階の物音を聞いてみたり、そっと旦那さんの書斎のドアの外に忍び寄ってじっと聞いたり、鍵穴からも覗いてみた。でも、ドアが分厚くて。中はシーンとしてて何してるのかわからねえ。俺はもう――」

原文 (会話文抽出)

「可愛いやつでした。五歳でした、女児でしたがね、其れはよく私になずいて居ました。国に居た頃でも、私が外から帰って来る、母や妻は無愛想でしても、女児が阿爺、阿爺と歓迎して、帽子をしまったり、其れはよくするのです。私も全く女児を亡くしてがっかりしてしまいました。病気は急性肺炎でしたがね、医者に駈けつけ頼むと、来ると云いながら到頭来ません。其内息を引きとってしまったンです。医者は耶蘇教信者だそうですが、私が貧乏者なんだから、それで其様な事をしたものでしょう。尤も医者もあとで吾子を亡くして、自分が曾て斯々の事をした、それで斯様な罰を受けたと懺悔したそうですがね」
「それから?」
「それから何時まで遊んでも居られませんから、夫婦である会社――左様、大連で一と云って二と下らぬ大きな会社と云えば大概御存じでしょう、其会社のまあ大将ですね、其大将の家に奉公に住み込みました。何しろ大連で一と云って二と下らぬ会社なものですから、生活なンかそりゃ贅沢なもンです。召使も私共夫婦の外に五六人も居ました。奥さんは好い方で、私共によく眼をかけてくれました。其内奥さんは何か用事で一寸内地へ帰られました。奥さんが内地へ帰られてから、二週間程経つと、如何も妻の容子が変って来ました。――妻ですか、何、美人なもンですか、些も好くはないのです」
「妻の容子がドウも変になりました。私も気をつけて見て居ると、腑に落ちぬ事がいくらもあるのです。主人が馬車で帰って来ます。二階で呼鈴が鳴ると、妻が白いエプロンをかけて、麦酒を盆にのせて持て行くのです。私は階段下に居ます。妻が傍眼に一寸私を見て、ずうと二階に上って行く。一時間も二時間も下りて来ぬことがあります。私は耳をすまして二階の物音を聞こうとしたり、窃と主人の書斎の扉の外に抜足してじいッと聴いたり、鍵の穴からも覗いて見ました。が、厚い厚い扉です。中は寂然して何を為て居るか分かりません。私は実に――」


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