徳田秋声 『足迹』 「お客さまはもうお帰りですか。」…

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青空文庫図書カード: 徳田秋声 『足迹』

現代語化

「お客さん、もう帰るんですか。」
「ちょっとお会計お願いします。」
「お前にそんな親戚がいるなんて、変じゃねえか。」
「あたしにも親戚がいるよ。」
「それじゃお前の何にあたる人だ。」
「お前の親戚が、座敷にあがって酒飲むなんて、変じゃねえか。」
「え、だから皆さんにもお目にかかりたかったんだけど、お母さんは具合悪いし、あなたもずっと寝てたでしょう。そんなに親しい親戚ってわけでもないし。あの人がたまたまここを通って、ちょっと寄っただけなんです。」
「言い訳しやがって。四ツ谷に行って聞いてみるからいいや。」
「え、いいですよ。あたしそんな嘘なんてつきませんよ。」

原文 (会話文抽出)

「お客さまはもうお帰りですか。」
「ちょいと勘定なんですがね。」
「お前にあんな親戚があるなんて、何だかおかしいじゃないか。」
「私にだって親類がありますよ。」
「それじゃお前の何に当る人だ。」
「お前の親類が、座敷へあがって酒を飲むなんて、変じゃないか。」
「え、だから皆さんにもお目にかかるって、そう言ったんですけれど、阿母さんは加減がわるいし、あなただって、今まで寝んでいらしったじゃありませんか。またそれほど近しい親類でもないんですもの。あの人が思いがけなくここを通って、ちょっと寄ったまでなんです。」
「うまく言ってら。四ツ谷へ行って聞いて見るからいいや。」
「え、いいんですとも。私そんな嘘なぞ吐きゃしませんよ。」

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