GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 徳田秋声 『足迹』
現代語化
「だって私、木曽へ行ったことあるもん。」
「あの家に我慢してれば、今頃こんな苦労しなくて済んだのに。」
「なんで我慢しなかったの?」
「なんでって、実家が遠いのも嫌だったし、姑って人が、お金持ちなのにケチで、3年間もいたのにエプロン1枚も私に作ってくれなかったんだ。田んぼも持ってるのに、馬を何十頭も飼って、それで子馬を生ませて、馬市に出せばお金持ちが買いに来る――。」
「その家じゃ機織りもバンバンやってるし、飯田から反物屋が来れば、姉妹にはそれを買って着せてたけど、私には一枚も作ってくれなかった。全部そうだったから私も欲しくはなかったけど、いい気はしなかった。だから初産の時、実家に帰ってからもう行かなかったんだ。」
「その人ってどんな人なの?」
「どんなって、馬を飼うような人だから、見た目はがさつだったよ。でも心は優しい人だった。今はもう大金持ちになってるかもね。私はその時、お金のことなんて考えてなかったし、産後に子どもが死んじゃったから、何を言われても帰る気になれなかった。でも、その子が育ってれば、また帰る気になったかもしれないけど。」
「そうだったらいなかったかもね。」
「そうだよ。」
原文 (会話文抽出)
「阿母さんもそんなものを持って来て。」
「阿母さんだって、木曽へ行った時分はねえ。」
「あの家に辛抱しておりさえすれば、今になってまごつくようなことはなかったに。」
「どうして辛抱しなかったの。」
「どうしてって、家の遠いのも厭だったし、姑という人が、物がたくさんあり余る癖に吝くさくて、三年いても前垂一つ私の物と言って拵えてくれたことせえなかった。田地もあったが、種馬を何十匹となく飼っておいて、それから仔馬を取って、馬市へも出せば伯楽が買いにも来る――。」
「その家じゃ機もどんどん織るし、飯田あたりから反物を売りに来れば、小姑たちにそれを買って着せもしたが、私には一枚だって拵えてくれやしない。万事がそれだで私も欲しくはなかったけれど、いい気持はしなかった。それで初産の時、駕籠で家へ帰ったきり行かずにしまったというわけせえ。」
「その人はどんな人さ。」
「どんなって、馬飼うような人だで、それはどうせ粗いものせえ。それでも気は優しい人だった。今じゃ何でもよっぽどの身上を作ったろうえ。私はその時分は、身上のことなぞ考えてもいなかったで、お産のあと子供が死んでから、どう言われても帰る気になれなかった。それでも、その子が育ってでもいれば、また帰る気になったかも知れないけれど。」
「そうすれば、私たちだっていなかったかも知れないわ。」
「そうせえ。」