田山花袋 『蒲団』 「で、貴方はどうしても不賛成?」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 田山花袋 『蒲団』

現代語化

「それで、あなたはやっぱり反対ですか?」
「賛成しようにもできないのに、まだ問題になっていませんからね。仮に今許して、2人が一緒になったとしても、男が22で、同志社の3年生では……」
「それはそうですが、人物をみて、将来の約束だけでも……」
「いや、約束なんてことはしませんよ。私は人物を見たわけではありませんし、よく知りませんが、女子校生の上京の途中を連れ出して途中で泊めたり、何年も恩があった神戸の教会の人を突然見捨てたりするような男ですから、とても話になりません。この間、芳が母に送ってきた手紙には、その男が苦しんでいるから、どうか察してあげて、私の学費を少し減らしてでも早稲田に通うくらいの金を出してほしいって書いてあったそうです。何かそういう計画で芳が騙されてはいないでしょうか?」
「そんなことはないと思いますけど……」
「どうも怪しいところがあります。芳子と約束ができた途端に宗教が嫌いになって文学が好きになったと言うのも変ですし、その後すぐに追いかけてきて、あなたの説得も聞かずに、貧乏でも東京にいるのも意味深です」
「それは恋に夢中だからで、善意に解釈することもできますが」
「それでも許可する、しないの問題ではなく、結婚の約束は大ごとですよ……相手側の身分も調べて、こちらとのバランスも考えなければなりませんし、家柄も調べなければなりません。それに一番は人物です。あなたの見るところでは、秀才だとかおっしゃっているようですが……」
「いや、そういうわけではありません」
「一体、人物はどういう……」
「それはかえって母さんがよく知っているそうです」
「何というか、須磨の日曜学校で1、2度会ったくらいだと、妻もよく知らないそうです。神戸では秀才だったとか何とか言われていたような男で、芳は女学校にいた頃から知っていたんでしょうけど。説教や祈祷をさせると、大人もかなわないくらい上手だったそうです」
「だから話が演説調になるし、形式的になるんだ。あの嫌な上目遣いは、祈祷するときの表情だな」
「それにしても、結局どうしましょう? 芳子さんを連れて帰りますか?」
「できれば……連れて帰りたくはありませんが。村に娘を突然連れて帰ると、とても目立ってしまいます。私と妻は村の慈善事業や名誉職などをしているものですから、今度のことなどが騒がれると、困る場合も出てくるでしょう……それで、私は、あなたが言う通り、できれば男を元の京都に帰らせて、しばらくは娘はお世話になりたいと思っています」
「それがいいでしょうね」

原文 (会話文抽出)

「で、貴方はどうしても不賛成?」
「賛成しようにもしまいにも、まだ問題になりおりませんけえ。今、仮に許して、二人一緒にするに致しても、男が二十二で、同志社の三年生では……」
「それは、そうですが、人物を御覧の上、将来の約束でも……」
「いや、約束などと、そんなことは致しますまい。私は人物を見たわけでありませんけえ、よく知りませんけどナ、女学生の上京の途次を要して途中に泊らせたり、年来の恩ある神戸教会の恩人を一朝にして捨て去ったりするような男ですけえ、とても話にはならぬと思いますじゃ。この間、芳から母へよこした手紙に、その男が苦しんでおるじゃで、どうか御察し下すって、私の学費を少くしても好いから、早稲田に通う位の金を出してくれと書いてありましたげな、何かそういう計画で芳がだまされておるんではないですかな」
「そんなことは無いでしょうと思うですが……」
「どうも怪しいことがあるです。芳子と約束が出来て、すぐ宗教が厭になって文学が好きになったと言うのも可笑しし、その後をすぐ追って出て来て、貴方などの御説諭も聞かずに、衣食に苦しんでまでもこの東京に居るなども意味がありそうですわい」
「それは恋の惑溺であるかも知れませんから善意に解釈することも出来ますが」
「それにしても許可するのせぬのとは問題になりませんけえ、結婚の約束は大きなことでして……。それにはその者の身分も調べて、此方の身分との釣合も考えなければなりませんし、血統を調べなければなりません。それに人物が第一です。貴方の御覧になるところでは、秀才だとか仰しゃってですが……」
「いや、そう言うわけでも無かったです」
「一体、人物はどういう……」
「それは却って母さんなどが御存じだと言うことですが」
「何アに、須磨の日曜学校で一二度会ったことがある位、妻もよく知らんそうですけえ。何でも神戸では多少秀才とか何とか言われた男で、芳は女学院に居る頃から知っておるのでしょうがナ。説教や祈祷などを遣らせると、大人も及ばぬような巧いことを遣りおったそうですけえ」
「それで話が演説調になるのだ、形式的になるのだ、あの厭な上目を使うのは、祈祷をする時の表情だ」
「それにしても、結局はどうしましょう? 芳子さんを伴れてお帰りになりますか」
「されば……なるたけは連れて帰りたくないと思いますがナ。村に娘を伴れて突然帰ると、どうも際立って面白くありません。私も妻も種々村の慈善事業や名誉職などを遣っておりますけえ、今度のことなどがぱっとしますと、非常に困る場合もあるです……。で、私は、貴方の仰しゃる通り、出来得べくば、男を元の京都に帰して、此処一二年、娘は猶お世話になりたいと存じておりますじゃが……」
「それが好いですな」


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