田山花袋 『蒲団』 「先生、本当に困って了ったんですの。田中が…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 田山花袋 『蒲団』

現代語化

「先生、やばいんです。田中が東京に来たいって言うんですよ。3回くらいは止めたんですけど、なんか、宗教が嘘っぽくてイヤになったとかで、絶対東京に行くって言うんです」
「東京で何すんの?」
「文学やるんだって──」
「文学? 文学って、小説書くってこと?」
「え、そうですよね……」
「アホちゃうか!」
「ほんま困ってるんです」
「あんたが勧めたんちゃうの?」
「してないですよ」
「そんなこと言うな……俺が困るから、せめて同志社だけでも卒業してくれって、こないだ言った時に止めたやんけ……もう勝手に決めちゃったんですって。今さらどうにもならなくなったんですって」
「なんで?」
「神戸の教会のやつで、田中に出資してる神津って人がおるんです。その人に、田中が宗教は向いてないから、文学でやっていきたい。東京に出してくださいって頼んだんですって。そしたら大激怒して、それならいい、勝手にしろってなって、もう準備しちゃったんですって。ほんま困るんです」
「アホか!」
「もう1回止めてみますけど、手紙届かないかも」
「届かない? もう来るんか」
「さっき来た手紙に、もう手紙送っても届かないからって書いてきたんです」
「今来た手紙って、さっきのハガキのやつ?」
「やばいですね。だから若いのはアカン言うねん」

原文 (会話文抽出)

「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭になって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」
「東京に来て、何をするつもりなんだ?」
「文学を遣りたいと──」
「文学? 文学ッて、何だ。小説を書こうと言うのか」
「え、そうでしょう……」
「馬鹿な!」
「本当に困って了うんですの」
「貴嬢はそんなことを勧めたんじゃないか」
「いいえ」
「私はそんなこと……私は今の場合困るから、せめて同志社だけでも卒業してくれッて、この間初めに申して来た時に達って止めて遣ったんですけれど……もうすっかり独断でそうして了ったんですッて。今更取かえしがつかぬようになって了ったんですッて」
「どうして?」
「神戸の信者で、神戸の教会の為めに、田中に学資を出してくれている神津という人があるのですの。その人に、田中が宗教は自分には出来ぬから、将来文学で立とうと思う。どうか東京に出してくれと言って遣ったんですの。すると大層怒って、それならもう構わぬ、勝手にしろと言われて、すっかり支度をしてしまったんですって、本当に困って了いますの」
「馬鹿な!」
「今一度留めて遣んなさい。小説で立とうなんて思ったッて、とても駄目だ、全く空想だ、空想の極端だ。それに、田中が此方に出て来ていては、貴嬢の監督上、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、厳しく止めて遣んなさい!」
「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから」
「行違い? それじゃもう来るのか」
「今来た手紙に、もう手紙をよこしてくれても行違いになるからと言ってよこしたんですから」
「今来た手紙ッて、さっきの端書の又後に来たのか」
「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」


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