芥川龍之介 『アグニの神』 「御嬢さん、御嬢さん。」…

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青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『アグニの神』

現代語化

「お嬢さん、お嬢さん」
「お嬢さん。しっかりしてください。遠藤です」
「遠藤さん？」
「そうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、ご安心を。さあ、早く逃げましょう」
「作戦は失敗だったわ。つい私が眠ってしまったから、――ごめんなさい」
「作戦がバレたのは、あなたじゃありません。あなたは私に約束した通り、アグニの神が憑いた真似はやり切りましたよね？――そんなことはどうでもいいんです。さあ、早くお逃げください」
「え、ウソ。私は眠ってしまったんですもの。何と言ったか知りませんわ」
「作戦は失敗だったわ。とても私は逃げられなくてよ」
「そんなことあるわけないでしょう。私と一緒に来てください。次失敗したら大変です」
「だってばあさんがいるでしょ？」
「ばあさん」

原文 (会話文抽出)

「御嬢さん、御嬢さん。」
「御嬢さん。しつかりおしなさい。遠藤です。」
「遠藤さん？」
「さうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げませう。」
「計略は駄目だつたわ。つい私が眠つてしまつたものだから、――堪忍して頂戴よ。」
「計略が露顕したのは、あなたのせゐぢやありませんよ。あなたは私と約束した通り、アグニの神の憑つた真似をやり了せたぢやありませんか？――そんなことはどうでも好いことです。さあ、早く御逃げなさい。」
「あら、嘘。私は眠つてしまつたのですもの。どんなことを言つたか、知りはしないわ。」
「計略は駄目だつたわ。とても私は逃げられなくてよ。」
「そんなことがあるものですか。私と一しよにいらつしやい。今度しくじつたら大変です。」
「だつてお婆さんがゐるでせう？」
「お婆さん。」

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