GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『俊寛』
現代語化
「いや、怒られたら本望だよ。でも成経は俺の顔を見ると、悲しそうに首を振って、『あなたは何もわかってない。あなたは幸せな人です』って言った。そういう返事って、怒られるより面倒なんだよ。俺も、――実は俺もあの時は妙に落ち込んだ。もし成経が言うように、何もわかんない人間だったら、落ち込むこともなかったかもしれない。でも俺はわかってるんだ。俺も昔は成経みたいに、涙を誇らしげに流してた。その涙を通して見れば、死んだ女房もどれほど美しい女に見えたことか、――そんなことを考えると、急に成経がかわいそうになった。でもかわいそうになっても、おかしいものはおかしいじゃないか? だから俺は笑いながら、言葉だけはまじめに慰めようとした。俺が成経に怒られたのは、あれが初めてで最後だったよ。成経は俺が慰めると、急に怖い顔をして、『嘘をつかないでください。私はあなたに慰められるより、笑われたいのです』って言った。その時突然、――変じゃない? 俺が大笑いしてしまったんだ」
「成経様はどうしました?」
「四、五日間は俺に会っても、挨拶もろくにしなかった。でもその後また会ったら、悲しそうに首を振って、『ああ、都に帰りたい。ここには牛車も通らない』って言った。あの男は俺よりずっと幸せだね。――でも、成経とか康頼がいたほうが、やはりいないよりはずっといいわよ。二人が都に帰った後は、俺はまた2年ぶりに毎日さびしくなった」
「都の噂では、あなたが寂しいどころか、嘆き死にしそうだったと聞きましたよ」
原文 (会話文抽出)
「そんな事をおっしゃっては、いくら少将でも御腹立ちになりましたろう。」
「いや、怒られれば本望じゃ。が、少将はおれの顔を見ると、悲しそうに首を振りながら、あなたには何もおわかりにならない、あなたは仕合せな方ですと云うた。ああ云う返答は、怒られるよりも難儀じゃ。おれは、――実はおれもその時だけは、妙に気が沈んでしもうた。もし少将の云うように、何もわからぬおれじゃったら、気も沈まずにすんだかも知れぬ。しかしおれにはわかっているのじゃ。おれも一時は少将のように、眼の中の涙を誇ったことがある。その涙に透かして見れば、あの死んだ女房も、どのくらい美しい女に見えたか、――おれはそんな事を考えると、急に少将が気の毒になった。が、気の毒になって見ても、可笑しいものは可笑しいではないか? そこでおれは笑いながら、言葉だけは真面目に慰めようとした。おれが少将に怒られたのは、跡にも先にもあの時だけじゃ。少将はおれが慰めてやると、急に恐しい顔をしながら、嘘をおつきなさい。わたしはあなたに慰められるよりも、笑われる方が本望ですと云うた。その途端に、――妙ではないか? とうとうおれは吹き出してしもうた。」
「少将はどうなさいました?」
「四五日の間はおれに遇うても、挨拶さえ碌にしなかった。が、その後また遇うたら、悲しそうに首を振っては、ああ、都へ返りたい、ここには牛車も通らないと云うた。あの男こそおれより仕合せものじゃ。――が、少将や康頼でも、やはり居らぬよりは、いた方が好い。二人に都へ帰られた当座、おれはまた二年ぶりに、毎日寂しゅうてならなかった。」
「都の噂では御寂しいどころか、御歎き死にもなさり兼ねない、御容子だったとか申していました。」