芥川龍之介 『俊寛』 「おれがこの島へ流されたのは、治承元年七月…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『俊寛』

現代語化

「俺がこの島に流されたのは、治承元年7月の初めだよ。俺は成親の卿と天下を乗っ取ろうとした覚えなんてない。それが西八条に閉じ込められた後、いきなりこの島に流されたんだ。だから最初は腹が立って、飯も食えなかった」
「でも都の噂では、――」
「僧都のあなたも仲間に入ったとかって話ですが、――」
「それはそうだろうな。成親の卿さえ俺を仲間に入れるって言ってたそうだし。でも俺は仲間じゃない。浄海入道の天下がいいのか、成親の卿の天下がいいのか、俺にはわかんない。もしかしたら成親の卿は浄海入道より根に持ってるだけで、政治には向いてないのかもしれない。俺はただ平家の天下はあってほしくないって言っただけだよ。源平藤橘、どの天下も結局あってほしくない。この島の住民を見なよ。平家の時代も源氏の時代も、同じように芋を食って、同じように子どもを生んでる。国家の役人がいなくなると国が滅びると思ってるみたいだけど、それは役人の勘違いだよ」
「でも僧都のあなたの天下なら、不足なんてないでしょう」

原文 (会話文抽出)

「おれがこの島へ流されたのは、治承元年七月の始じゃ。おれは一度も成親の卿と、天下なぞを計った覚えはない。それが西八条へ籠められた後、いきなり、この島へ流されたのじゃから、始はおれも忌々しさの余り、飯を食う気さえ起らなかった。」
「しかし都の噂では、――」
「僧都の御房も宗人の一人に、おなりになったとか云う事ですが、――」
「それはそう思うに違いない。成親の卿さえ宗人の一人に、おれを数えていたそうじゃから、――しかしおれは宗人ではない。浄海入道の天下が好いか、成親の卿の天下が好いか、それさえおれにはわからぬほどじゃ。事によると成親の卿は、浄海入道よりひがんでいるだけ、天下の政治には不向きかも知れぬ。おれはただ平家の天下は、ないに若かぬと云っただけじゃ。源平藤橘、どの天下も結局あるのはないに若かぬ。この島の土人を見るが好い。平家の代でも源氏の代でも、同じように芋を食うては、同じように子を生んでいる。天下の役人は役人がいぬと、天下も亡ぶように思っているが、それは役人のうぬ惚れだけじゃ。」
「が僧都の御房の天下になれば、何御不足にもありますまい。」


青空文庫現代語化 Home リスト