GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『俊寛』
現代語化
「私は都には帰りません」
「私は都にいた時と同じように、あなたのおそばに仕えるつもりです。一人年老いた母を捨て、兄弟にも何も言わずに、はるばるこの島に来たのは、そのためだけじゃありませんか? 私はあなたに、そんなに命が惜しいように見えますか? 私はそれほど恩知らずな、人間じゃないように見えますか? 私はそれほど、――」
「それほどばかだとは思わなかった」
「私がこの島に残れば、姫の安否を知らせるのは、誰がほかにできるんですか? 私は一人でも大丈夫。それに梶王という童がいます。――まあ、嫉妬なんかはしませんよね? あの子は親のいない孤児です。幼い頃の流人の俊寛みたいなものですよ。あなたは便船が出たらすぐに都に帰ってください。その代わり今夜はお土産に、私の島での暮らしぶりを話してあげます。また泣いてるんですか? よしよし、じゃあ泣いたまま私の話を聞いてください。私は一人で笑いながら、勝手に話し続けますよ」
原文 (会話文抽出)
「お前が都へ帰ったら、姫にも歎きをするよりは、笑う事を学べと云ってくれい。」
「わたしは都へは帰りません。」
「わたしは都にいた時の通り、御側勤めをするつもりです。年とった一人の母さえ捨て、兄弟にも仔細は話さずに、はるばるこの島へ渡って来たのは、そのためばかりではありませんか? わたしはそうおっしゃられるほど、命が惜いように見えるでしょうか? わたしはそれほど恩義を知らぬ、人非人のように見えるでしょうか? わたしはそれほど、――」
「それほど愚かとは思わなかった。」
「お前がこの島に止まっていれば、姫の安否を知らせるのは、誰がほかに勤めるのじゃ? おれは一人でも不自由はせぬ。まして梶王と云う童がいる。――と云ってもまさか妬みなぞはすまいな? あれは便りのないみなし児じゃ。幼い島流しの俊寛じゃ。お前は便船のあり次第、早速都へ帰るが好い。その代り今夜は姫への土産に、おれの島住いがどんなだったか、それをお前に話して聞かそう。またお前は泣いているな? よしよし、ではやはり泣きながら、おれの話を聞いてくれい。おれは独り笑いながら、勝手に話を続けるだけじゃ。」