太宰治 『故郷』 「あなた! かぜを引きますよ。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『故郷』

現代語化

「あなた!風邪ひきますよ。」
「園子はどう?」
「寝ました。」
「大丈夫かな?寒くないようにしといた?」
「ええ。叔母さんが毛布を持ってきて貸してくださいました。」
「どうだい、みんないい人だろう。」
「ええ。」
「これから私たちどうなるの?」
「わからない。」
「今夜はどこへ泊まるの?」
「そんなこと僕に聞いてもしかたないでしょ。全部北さんの言う通りにするしかないんだよ。十年来、そんな習慣になってるんだ。北さんを無視して直接兄さんに話しかけたりすると大変なことになるんだ。そういうことになってるの。わからない?僕には今、何も権利がないんだ。トランク一つ持って来ることさえできないんだから。」
「なんだか、ちょっと北さんを恨んでるみたいね。」
「ばか。北さんの好意は身に沁みてわかってるよ。でも、北さんが間に入ってるから、僕と兄さんとの仲も妙にややこしくなってるようなところもあるんだ。どこまでも北さんの顔立てなきゃいけないし、悪い人は一人もいないし、――」
「ほんとにね。」
「北さんがせっかく連れてきてくださるのに、お断りするのは悪いと思って、私や園子までお供してきたんだけど、それで北さんにご迷惑がかかったんじゃ、私だって困るわ。」
「それもそうね。うっかり人の世話なんかするもんじゃないね。僕という難物の存在がいけないんだ。ほんと今回は北さんもお気の毒だったよ。わざわざこんな遠方へ来て、僕たちからも、また兄さんたちからも、そんなにありがたがられないと来ちゃ、さんざんだよ。僕たちだけでも、ここはなんとかして北さんの顔立てられるように工夫しなきゃいけないんだろうけど、あいにくそんな力はないんだよ。下手に出しゃばったら、めちゃくちゃだ。まあ、しばらくこうしてモタモタしてるんだね。お前は病室へ行って、お母さんの足でももんでいなさい。お母さんの病気、ただそれだけを考えてればいいんだ。」<ctrl100>

原文 (会話文抽出)

「あなた! かぜを引きますよ。」
「園子は?」
「眠りました。」
「大丈夫かね? 寒くないようにして置いたかね?」
「ええ。叔母さんが毛布を持って来て、貸して下さいました。」
「どうだい、みんないいひとだろう。」
「ええ。」
「これから私たち、どうなるの?」
「わからん。」
「今夜は、どこへ泊るの?」
「そんな事、僕に聞いたって仕様が無いよ。いっさい、北さんの指図にしたがわなくちゃいけないんだ。十年来、そんな習慣になっているんだ。北さんを無視して直接、兄さんに話掛けたりすると、騒動になってしまうんだ。そういう事になっているんだよ。わからんかね。僕には今、なんの権利も無いんだ。トランク一つ、持って来る事さえできないんだからね。」
「なんだか、ちょっと北さんを恨んでるみたいね。」
「ばか。北さんの好意は、身にしみて、わかっているさ。けれども、北さんが間にはいっているので、僕と兄さんとの仲も、妙にややこしくなっているようなところもあるんだ。どこまでも北さんのお顔を立てなければならないし、わるい人はひとりもいないんだし、――」
「本当にねえ。」
「北さんが、せっかく連れて来て下さるというのに、おことわりするのも悪いと思って、私や園子までお供して来て、それで北さんにご迷惑がかかったのでは、私だって困るわ。」
「それもそうだ。うっかりひとの世話なんか、するもんじゃないね。僕という難物の存在がいけないんだ。全くこんどは北さんもお気の毒だったよ。わざわざこんな遠方へやって来て、僕たちからも、また、兄さんたちからも、そんなに有難がられないと来ちゃ、さんざんだ。僕たちだけでも、ここはなんとかして、北さんのお顔の立つように一工夫しなければならぬところなんだろうけれど、あいにく、そんな力はねえや。下手に出しゃばったら、滅茶々々だ。まあ、しばらくこうして、まごまごしているんだね。お前は病室へ行って、母の足でもさすっていなさい。おふくろの病気、ただ、それだけを考えていればいいんだ。」


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