芥川龍之介 『将軍』 「じゃあなた方に籤を引いて貰おう。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『将軍』

現代語化

「じゃあなた方にくじを引いてもらおう」
「それは無難な話ですね。でも西洋人には聞かされないな」
「まあそんな調子でね、12、3歳の中学生でも、N閣下と言えば、叔父さんのように懐いていたものだ。閣下はあなたがたの思うようには、決して一介の武弁じゃない」
「あれもやっぱり人格者かい?」
「ええ、偉い画家です」
「N閣下などとはどうだろう?」
「どうと言われましても困りますが、――まあN将軍などよりも、僕らに近い気持ちのある人です」
「閣下があなた方から遠いと言うのは?」
「何と言えばいいですか?――まあ、こんな点ですね。たとえば今日追悼会のあった、河合という男などは、やはり自殺しているのです。が、自殺する前に――」
「写真を撮る余裕はなかったようです」
「写真を撮ってもいいじゃないか? 最後の記念という意味もあるし、――」
「誰のためにですか?」
「誰ということでもないが、――僕ら始めN閣下の最後の顔は見たいじゃないか?」
「それは少なくともN将軍は、考えるべきことではないと思います。僕は将軍の自殺した気持ちは、多少わかるような気がします。でも写真を撮ったのはわかりません。まさか死後その写真が、どこの店頭にも飾られることを、――」
「それは酷だ。閣下はそんな俗人じゃない。徹頭徹尾至誠の人だ」
「もちろん俗人じゃなかったでしょう。至誠の人だったことも想像できます。ただその至誠が僕らには、どうもはっきり飲み込めません。僕らより後の人間には、なおさら通じるとは思われません。……」
「時代の違いだね」
「ええ、まあ、――」
「雨ですね。お父さん」
「雨?」

原文 (会話文抽出)

「じゃあなた方に籤を引いて貰おう。」
「それは罪のない話ですね。だが西洋人には聞かされないな。」
「まあそんな調子でね、十二三の中学生でも、N閣下と云いさえすれば、叔父さんのように懐いていたものだ。閣下はお前がたの思うように、決して一介の武弁じゃない。」
「あれもやはり人格者かい?」
「ええ、偉い画描きです。」
「N閣下などとはどうだろう?」
「どうと云っても困りますが、――まあN将軍などよりも、僕等に近い気もちのある人です。」
「閣下のお前がたに遠いと云うのは?」
「何と云えば好いですか?――まあ、こんな点ですね、たとえば今日追悼会のあった、河合と云う男などは、やはり自殺しているのです。が、自殺する前に――」
「写真をとる余裕はなかったようです。」
「写真をとっても好いじゃないか? 最後の記念と云う意味もあるし、――」
「誰のためにですか?」
「誰と云う事もないが、――我々始めN閣下の最後の顔は見たいじゃないか?」
「それは少くともN将軍は、考うべき事ではないと思うのです。僕は将軍の自殺した気もちは、幾分かわかるような気がします。しかし写真をとったのはわかりません。まさか死後その写真が、どこの店頭にも飾られる事を、――」
「それは酷だ。閣下はそんな俗人じゃない。徹頭徹尾至誠の人だ。」
「無論俗人じゃなかったでしょう。至誠の人だった事も想像出来ます。ただその至誠が僕等には、どうもはっきりのみこめないのです。僕等より後の人間には、なおさら通じるとは思われません。……」
「時代の違いだね。」
「ええ、まあ、――」
「雨ですね。お父さん。」
「雨?」


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