太宰治 『パンドラの匣』 「血筋がいいのね。ひばりが来たら、道場が本…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『パンドラの匣』

現代語化

「血筋がいいのね。ひばりが来たら、道場が本当に、急に明るくなったわ。みんなの気持ちも変わった。あんな良い子を見たことが無いって、竹さんも言ってた。竹さんはめったに他人の噂なんかしない人なんだけど、ひばりには夢中なのよ。竹さんだけじゃなくて、キントトだって、たまねぎだって、みんなそうなのよ。でも塾生さんたちに悪い噂を立てられて、ひばりに迷惑がかかるようなことになるといけないから、みんな気をつけて、ひばりに近づかないようにしてるのよ」
「それは、敬遠というものなんだ。好きなんじゃないんだ」
「あら、あんなこと」
「私は違うのよ。私は、ひばりをちっとも好きじゃないの。だから、こうして二人きりで話したって構わないのよ。思い違いしないでね。私は、――」
「せいぜい、つくしと文通するさ。僕は、はっきり言うけど、つくしの手紙の下手さには呆れたよ」
「知ってるわ。下手な手紙だからお見せしたんじゃないの。良い手紙だったら、誰が見せるもんか。私は、つくしの事など、なんとも思ってないわ。そんなに人を馬鹿にするもんじゃないわ」
「私はもう、ダメなのよ。あなたは知らないでしょう? とんまだから、気がつかないんだ。私は、あなたといい仲だって事を、もう、みんなに言われているのよ。どうするの? そう言われてもいいの?」
「やめて、やめて」
「困る? どうなの? ね、この上、また恥をかかすの? 昨日、お月様が、明るくて、眠れなくて、庭へ出て、それから、ひばりの枕元の、カーテンが、少し開いていたので、覗いてみたの、知ってる? ひばりは、月の光を浴びて、笑いながら、眠ってたわ。あの寝顔、よかったな。ね、ひばり、どうするの?」
「無理だよ。どだい無理だよ。僕は二十なんだ。困るんだ。おい、誰か、こっちへ来るぜ」
「ダメねえ、そんなんじゃないのよ」
「もう、講話の時間だ。失敬するよ。僕は、時間におくれるなんて、だらしない事は嫌いなんだ」
「竹さんと仲良くしちゃダメよ」

原文 (会話文抽出)

「血筋がいいのね。ひばりが来たら、道場が本当に、急にあかるくなったわ。みんなの気持も変ってしまった。あんないい子を見たことが無いって、竹さんも言ってた。竹さんはめったに他人の噂なんかしないひとなんだけど、ひばりには夢中なのよ。竹さんだけでなく、キントトだって、たまねぎだって、みんなそうなのよ。でも塾生さんたちにいやな噂を立てられて、ひばりに迷惑がかかるような事になるといけないから、みんな気をつけて、ひばりに近寄らないようにしているのよ。」
「そいつぁ、敬遠というものなんだ。好きなんじゃないんだ。」
「あら、あんなこと。」
「あたしは違うのよ。あたしは、ひばりをちっとも好きでないの。だから、こうして二人きりで話したってかまわないのよ。思い違いしないでね。あたしは、――」
「せいぜい、つくしと文通するさ。僕は、はっきり言うけど、つくしの手紙の下手さには呆れた。」
「知ってるわ。下手な手紙だからお見せしたんじゃないの。いい手紙だったら、誰が見せるもんか。あたしは、つくしの事など、なんとも思ってやしないわ。そんなに人を馬鹿にするもんじゃないわ。」
「あたしはもう、だめなのよ。あなたは知らないでしょう? とんまだから、気がつかないんだ。あたしは、あなたといい仲だって事を、もう、みんなに言われているのよ。どうするの? そう言われてもいいの?」
「よせ、よせ。」
「困る? どうなの? ね、この上、また恥をかかすの? ゆうべ、お月さまが、あかるくて、眠れなくて、庭へ出て、それから、ひばりの枕元の、カアテンが、少しあいていたので、のぞいてみたの、知ってる? ひばりは、月の光を浴びて、笑いながら、眠ってたわ。あの寝顔、よかったな。ね、ひばり、どうするの?」
「無理だよ。どだい無理だよ。僕は二十なんだ。困るんだ。おい、誰か、こっちへ来るぜ。」
「だめねえ、そんなんじゃないのよ。」
「もう、講話の時間だ。失敬するぜ。僕は、時間におくれるなんて、だらしない事はきらいなんだ。」
「竹さんと仲よくしちゃ駄目よ。」


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