太宰治 『斜陽』 「かず子」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『斜陽』

現代語化

「かず子」
「はい」
「行くところがある、ってどこ?」
「細田さん?」
「昔のこと言ってもいい?」
「どうぞ」
「あなたが、山木さん家から出て、西片町帰って来たとき、お母さん何も責めるようなこと言わなかったつもりだけど、でも、たった一言だけ、「お母さんはあなたに裏切られました」って言ったわね。覚えてる? そしたら、あなた泣き出しちゃって、……私も裏切ったなんてひどい言葉使ったって思ったけど、……」
「お母さん、あの時、裏切られたって言ったのは、あなたが山木さん家出て来たことじゃないの。山木さんから、「かず子は実は、細田と付き合ってたんです」って言われた時なの。そう言われたとき、本当に、私は顔色が変わる思いでした。だって、細田さんには、あのずっと前から、奥さんも子供もあってお慕いしたって、どうにもならない事だし、……」
「付き合ってたなんて、ひどいこと。山木さんのほうで、ただそう邪推してただけなのよ」
「そうかしら。あなたは、まさか、あの細田さんを、まだ思いつづけてるんじゃないでしょうね。行くところって、どこ?」
「細田さんのとこなんかじゃないわ」
「そう? それなら、どこ?」
「お母さん、私、こないだ考えたことなんだけど、人間が他の動物と、まるっきり違ってる点は、何だろう、言葉も知恵も、思考も、社会の秩序も、それぞれ程度の差はあっても、他の動物だって皆持ってるでしょ? 信仰も持ってるかもしれないわ。人間は、万物の霊長だなんて威張ってるけど、ちっとも他の動物と本質的な違いがないみたいでしょ? ところがね、お母さん、たった一つあったの。おわかりにならないでしょ。他の生き物には絶対に無くて、人間にだけあるもの。それはね、「秘密」というものよ。どう?」
「ああ、そのかず子の秘密が、いい結果を生んでくれたらいいけどね。お母さん、毎朝、お父さんにかず子を幸せにしてくれるように祈ってるのよ」

原文 (会話文抽出)

「かず子」
「はい」
「行くところがある、というのは、どこ?」
「細田さま?」
「昔の事を言ってもいい?」
「どうぞ」
「あなたが、山木さまのお家から出て、西片町のお家へ帰って来た時、お母さまは何もあなたをとがめるような事は言わなかったつもりだけど、でも、たった一ことだけ、(お母さまはあなたに裏切られました)って言ったわね。おぼえている? そしたら、あなたは泣き出しちゃって、……私も裏切ったなんてひどい言葉を使ってわるかったと思ったけど、……」
「お母さまがね、あの時、裏切られたって言ったのは、あなたが山木さまのお家を出て来た事じゃなかったの。山木さまから、かず子は実は、細田と恋仲だったのです、と言われた時なの。そう言われた時には、本当に、私は顔色が変る思いでした。だって、細田さまには、あのずっと前から、奥さまもお子さまもあって、どんなにこちらがお慕いしたって、どうにもならぬ事だし、……」
「恋仲だなんて、ひどい事を。山木さまのほうで、ただそう邪推なさっていただけなのよ」
「そうかしら。あなたは、まさか、あの細田さまを、まだ思いつづけているのじゃないでしょうね。行くところって、どこ?」
「細田さまのところなんかじゃないわ」
「そう? そんなら、どこ?」
「お母さま、私ね、こないだ考えた事だけれども、人間が他の動物と、まるっきり違っている点は、何だろう、言葉も智慧も、思考も、社会の秩序も、それぞれ程度の差はあっても、他の動物だって皆持っているでしょう? 信仰も持っているかも知れないわ。人間は、万物の霊長だなんて威張っているけど、ちっとも他の動物と本質的なちがいが無いみたいでしょう? ところがね、お母さま、たった一つあったの。おわかりにならないでしょう。他の生き物には絶対に無くて、人間にだけあるもの。それはね、ひめごと、というものよ。いかが?」
「ああ、そのかず子のひめごとが、よい実を結んでくれたらいいけどねえ。お母さまは、毎朝、お父さまにかず子を幸福にして下さるようにお祈りしているのですよ」


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