島崎藤村 『夜明け前』 「お師匠さま、お師匠さま」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「先生、先生」
「ヘンなもんだよな。俺みたいなのは、明日を待つなんて考えじゃダメだってところからスタートしたんだ。明日は、明日はって言っても、そんな明日はいつまで待っても来ねえ。今日はまた、あっという間になくなっちまう。過去こそ本物だ――それが先生がおれに教えてくれたことなんだよ。どんどん歳をとって、いろんな経験をしてると、いつの間にか俺も遠くまで来ちゃったような気がするな。こうして子供のこととかよく思い出すとさ、やっぱり俺ってばかだから明日を待ってるんだろうな。」
「なあ、お民。やっぱり酒はダメだ。飲みすぎると眠れねえ。こないだは、宗太や親戚には内緒で約束を破っちまったよ。俺も我慢できなかったからさ。そしたら眠れねえ。5晩か6晩もそんな眠れねえ日が続くとさ、しまいにはおれも書き置きを書こうかとまで思ったくらい苦しかった。マジで、冗談じゃねえ。いろはにほへとと同じことを枕の上で繰り返したり、一二三四と何べんとなく数えたりして、どうにかして眠りたいと思った。そのうち眠れたよ。もうあんなことは懲り懲りだ。ここまで来ないと、酒はやめられねえもんなのかもしれないな。」
「それは、あなた、できればここでスパッとやめなさるといい。そう思って、もうお酒の道具は片づけましたよ。」
「まあ、晩酌にちょこっとやるくらいじゃ雀が水を浴びるようなもんだ。なかなか節酒なんていうのはできねえよ。飲むなら飲む、飲まないなら飲まない――この2つしかねえ。」

原文 (会話文抽出)

「お師匠さま、お師匠さま」
「妙なものだなあ。おれなぞはおまえ、明日を待つような量見じゃだめだというところから出発した。明日は、明日はと言って見たところで、そんな明日はいつまで待っても来やしない。今日はまた、またたく間に通り過ぎる。過去こそ真だ――それがおまえ、篤胤先生のおれに教えてくだすったことさ。だんだんこの世の旅をして、いろいろな目にあううちに、いつのまにかおれも遠く来てしまったような気がするね。こうして子供のことなぞをよく思い出すところを見ると、やっぱりおれというばかな人間は明日を待ってると見える。」
「なあ、お民。どうも酒はよくない。飲み過ぎるとおれは眠られない。こないだは、宗太や親類には内証で堅い誓約を破ってしまった。おれも我慢がしきれなかったからさ。さあ、それから眠られない。五晩も六晩もそんな眠られないことが続くうちに、しまいにはおれも書き置きを書こうかとまで思ったくらい苦しかった。ほんとに、冗談じゃない。いろはにほへとと同じことを枕の上で繰り返して見たり、一二三四と何べんとなく数えて見たりして、どうかしておれは眠りたいと思った。そのうちに眠られた。もうあんなことは懲り懲りした。ここまで来ないと、酒はやめられないものかもしれないナ。」
「そりゃ、あなた、できればここでふッつりお断ちなさるがいい。そう思って、わたしはもうお酒の道具を片づけてしまいましたよ。」
「まあ、晩酌に五勺ばかりやって見たところでまるで、雀が水を浴びるようなものさ。なかなか節酒ということが行なわれるもんじゃない。飲むなら飲む、飲まないなら全く飲まない――この二つだ。」


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