島崎藤村 『夜明け前』 「そんなら言うが、今は地方のものが騒ぎ立て…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「それなら言うが、今は地方の者が騒ぎ立てるような時期じゃないぞ。百姓も、町人も、本当に一致して取り組まなければ、世の中はどうなる。もっとみんなが京都の政府を信じてくれたら、こんな一揆も起こらないと思うんだ。お前たちからも仲間によく話してくれ」
「そのことは俺たちもよく話してるよ」
「誰でも、お前、餓死はしたくない」
「それなら、そのように、いくらでも訴える方法はあります。今回の政府はそれを聞こうと言ってるじゃないか。尾州藩でも決して黙って見てるわけじゃない。ほら、馬籠の村の人たちがみんなで嘆願して、去年なんか上納する年貢を半分にしてもらった。あんな凶作もめったにあるまいが、藩でも心配してくれて、年貢を下げた上に、米を60石3回に分けて送ってくれた。あの時だって、お前、1回分の金が17両、米が10俵――それだけは村中で困ってる人に配られたじゃないか」
「それがですね」
「笹屋の庄助さんのように自分で耕作してる農家なら、まだいい。どんな時でも余裕があるからね。水呑百姓なんていうのは、お前さん、そんな余裕はないだろう。そりゃ、これからの世の中は商人はいいだろう。本当に百姓はつまらないんだ。食べては、なくなる。食べては、なくなる。それも食べてなくなれるうちはまだいい。3、4月の食い締めになってみろ。今日どんな稼ぎでもいいから、高い米でも何でも買わなきゃならない」
「そんなにみんな困ってるのか。困ると言えば、こんな時にはお互いじゃないか。それなら聞くが、いったい、岩倉様のお通りはいつだったと思う。あの時に出たお救いのお金だって、みんなのところに行き渡ったはずだ」
「あなたの前ですが、あんなお金はいつまでもありませんよ。みんな――とっくに飲んでしまいました」

原文 (会話文抽出)

「そんなら言うが、今は地方のものが騒ぎ立てるような、そんな時世じゃないぞ、百姓も、町人も、ほんとに一致してかからなかったら、世の中はどうなろう。もっと皆が京都の政府を信じてくれたら、こんな一揆も起こるまいとおれは思うんだ。お前たちからも仲間のものによく話してくれ。」
「そのことはおれたちもよく話すわいなし。」
「だれだって、お前、饑え死にはしたくない。」
「そんなら、そのように、いくらも訴える道はある。今度の政府はそれを聞こうと言ってるんじゃないか。尾州藩でも決して黙ってみちゃいない。ごらんな、馬籠の村のものが一同で嘆願して、去年なぞも上納の御年貢を半分にしてもらった。あんな凶年もめったにあるまいが、藩でも心配してくれて、御年貢をまけた上に、米で六十石を三回に分けてさげてよこした。あの時だって、お前、一度分の金が十七両に、米が十俵――それだけは村中の困ってるものに行き渡ったじゃないか。」
「それがです。」
「笹屋の庄助さのように自分で作ってる農なら、まだいい。どんな時でもゆとりがあるで。水呑百姓なんつものは、お前さま、そんなゆとりがあらすか。そりゃ、これからの世の中は商人はよからず。ほんとに百姓はツマらんぞなし。食っては、抜け。食っては抜け。それも食って抜けられるうちはまだいい。三月四月の食いじまいとなって見さっせれ。今日どんな稼ぎでもして、高い米でもなんでも買わなけりゃならん。」
「そんなにみんな困るのか。困ると言えば、こんな際にはお互いじゃないか。そんなら聞くが、いったい、岩倉様の御通行は何月だったと思う。あの時に出たお救いのお手当てだって、みんなのところへ行き渡ったはずだ。」
「お前さまの前ですが、あんなお手当てがいつまであらすか。みんな――とっくに飲んでしまったわなし。」


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