島崎藤村 『夜明け前』 「宗太さま、お前さまはどこで岩倉様を拝まっ…

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青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「宗太さん、あなたはどこで岩倉様を拝んだんですか?」
「俺か?俺は石屋の坂で」
「山口(隣の村)から見物に来たおじさんが面白いことを言ってましたよ――まるで錦絵から出てきた人のようだ、なんて――東下りの業平朝臣だと思えば、間違いないなんて」
「業平朝臣はかっこよかったよ」
「そういえば、清助さんは福島の隠居老人のことを聞きましたか?」
「ええ、聞きました」
「あの隠居老人、気の毒ですよね。わざわざ中津川まで出かけましたが、岩倉様にはお会いできなかったそうです」
「そういう話です」
「まあ、隠居老人はああいう方ですが、木曾福島の家来には不審なところがあるでしょうね。献上した馬だけは、なんとかうまく納めたそうですけど」
「とにかく、福島での御通行は見ものです」
「でも、清助さん、大垣のことを考えてみてください。あの大きな藩でも、城を明け渡して、570人くらいが今回のお供をするんですよ。福島の家臣団でも、そうは頑張れないでしょう」
「だから、見ものだと言うんですよ。それに比べると、村の連中は本当に呑気ですよね。江戸幕府が倒れようが、明治の時代になろうが――そんなことは、どっちでもいいような顔をしています」
「このご時世にね。まあ、清助さん、みんな心配はしてるんですよ」
「何ていうか、まるで他人事みたいですよ」

原文 (会話文抽出)

「宗太さま、お前さまはどこで岩倉様を拝まっせいたなし。」
「おれか。おれは石屋の坂で。」
「山口(隣村)から見物に来たおじさんがおもしろいことを言ったで――まるで錦絵から抜け出した人のようだったなんて――なんでも、東下りの業平朝臣だと思えば、間違いないなんて。」
「業平朝臣はよかった。」
「そう言えば、清助さんは福島の御隠居さまのことをお聞きか。」
「えゝ、聞いた。」
「あの御隠居さまもお気の毒さ。わざわざ中津川までお出ましでも、岩倉様の方でおあいにならなかったそうじゃないか。」
「そういう話です。」
「まあ、御隠居さまはああいうかたでも、木曾福島の御家来衆に不審のかどがあると言うんだろうね。献上したお馬だけは、それでも首尾よく納めていただいたと言うから。」
「何にしても、福島での御通行は見ものです。」
「しかし、清助さん、大垣のことを考えてごらんな。あの大きな藩でも、城を明け渡して、五百七十人からの人数が今度のお供でしょう。福島の御家中でも、そうはがんばれまい。」
「ですから、見ものだと言うんですよ。そこへ行くと、村の衆なぞは実にノンキなものですね。江戸幕府が倒れようと、御一新の世の中になろうと――そんなことは、どっちでもいいような顔をしている。」
「この時節がらにかい。そりゃ、清助さん、みんな心配はしているのさ。」
「なあに、まるで赤の他人です。」


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