GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』
現代語化
「すべてが変わるときが来たんでしょう。」
「――武器でも武人の服装でも。」
「まあ、長州征伐がそれを早めたとも言えますね。」
「でも、半蔵さん、征討軍の鉄砲や大砲は古くて役に立たなかったそうですね。なんでも、長防の連中は農兵までが全員西洋の新しい兵器で、寄せ手のものはポンポン撃たれてしまったんだって。あのミニエー銃ってやつは、イギリスが長州に提供したんだそうですね。日本国内に疑わしいことがあればいくらでも尋問させる、外国から兵器を供給された覚えはないなんて、長防の連中がいくら強気に出ても、後には薩摩やイギリスがついて、次々に送ってくるんですから、同じことですよね。そこなんです、君。諸藩に率先して外国を排斥したのはだれだったかくらいは半蔵さんも覚えてるでしょう。あれほど大きな声で攘夷を唱えた人たちが、手のひらを返すように説を変えるなんていいものでしょうか?そんなら今までの攘夷は何のためだったんです。」
「なるほど、今日はいろんなことを考えて、妻籠からやってきたんですね。」
「まあ、見てくださいよ。破約攘夷の声が盛んに起こったかと思うと、すぐ航海遠略の説を捨てる。条約の勅許が出たかと思うと、すぐ外国と結ぶ。本当に、西の人たちの順応性には驚きますよ。あれも一時、これも一時と言ってしまえば、それまでですが、正直なものは戸惑いますよ。そりゃ、幕府だってフランスの力を借りようとしてるんだって、そんな噂がいっぱいありますさ。イギリスはこの国がバラバラになるのを待ってるけど、フランスだけはそんなことは絶対にないなんて、フランスはフランスでなかなか巧みな言葉を幕府の役人に吹き込んでるという噂もありますよ。でも、幕府が外国の力によって外藩を圧迫しようとするのはひどいって言う人はいても、薩長が外国の力によって幕府を倒したのは、誰も不思議だとは言わないんです。」
「そんな、君みたいに――私に食ってかかっても仕方ないです。」
「いくら防長の連中だって、この国の分裂を賭してまでイギリスに頼るわけがないでしょう。高杉晋作なんて有名な人物が舞台に上がってきたじゃないですか。下手なことをすれば、外国に乗っ取られるくらいは、わかってるでしょう。」
「それもそうですね。まあ、長州の人たちの立場になれば、こんな非常時に非常な手段が必要だって言うんでしょうか。イギリスからの武器の供給は大局から見れば小さなことぐらいに考えてるんでしょうか。僕たちも庄屋ですからね。下から見上げるからこそ、こんな議論が出るんですよ。」
「とにかく、寿平次さん――西洋が入り込んできましたね。考えなければいけない時勢ですね。」
原文 (会話文抽出)
「あの水戸浪士が通った時から見ると、隔世の感がありますね。もうあんな鎧兜や黒い竪烏帽子は見られませんね。」
「一切の変わる時がやって来たんでしょう。」
「――武器でも武人の服装でも。」
「まあ、長州征伐がそれを早めたとも言えましょうね。」
「しかし、半蔵さん、征討軍の鉄砲や大筒は古風で役に立たなかったそうですね。なんでも、長防の連中は農兵までが残らず西洋の新式な兵器で、寄せ手のものはポンポン撃たれてしまったと言うじゃありませんか。あのミニエール銃というやつは、あれはイギリスが長州に供給したんだそうですね。国情に疑惑があらばいくらでも尋問してもらおう、直接に外国から兵器を供給された覚えはないなんて、そんなに長防の連中が大きく出たところで、後方に薩摩やイギリスがついていて、どんどんそれを送ったら、同じ事でさ。そこですよ。君。諸藩に率先して異国を排斥したのはだれだくらいは半蔵さんだっても覚えがありましょう。あれほど大きな声で攘夷を唱えた人たちが、手の裏をかえすように説を変えてもいいものでしょうかね。そんなら今までの攘夷は何のためです。」
「へえ、きょうは君はいろいろなことを考えて、妻籠からやって来たんですね。」
「まあ見たまえ。破約攘夷の声が盛んに起こって来たかと思うと、たちまち航海遠略の説を捨てる。条約の勅許が出たかと思うと、たちまち外国に結びつく。まったく、西の方の人たちが機会をとらえるのの早いには驚く。あれも一時、これも一時と言ってしまえば、まあそれまでだが、正直なものはまごついてしまいますよ。そりゃ、幕府だってもフランスの力を借りようとしてるなんて、もっぱらそんな風評がありますさ。イギリスはこの国の四分五裂するのを待ってるが、フランスにかぎって決してそんなことはないなんて、フランスはまたフランスでなかなかうまい言を幕府の役人に持ち込んでるといううわさもありますさ。しかし、幕府が外国の力によって外藩を圧迫しようとするなぞ実にけしからんと言う人はあっても、薩長が外国の力によって幕府を破ったのは、だれも不思議だと言うものもない。」
「そんな、君のような――わたしにくってかかってもしようがない。」
「いくら防長の連中だって、この国の分裂を賭してまでイギリスに頼ろうとは言いますまい。高杉晋作なんて評判な人物が舞台に上って来たじゃありませんか。下手なことをすれば、外国に乗ぜられるぐらいは、知りぬいていましょう。」
「それもそうですね。まあ、長州の人たちの身になったら、こんな非常時に非常な手段を要するとでも言うんでしょうか。イギリスからの武器の供給は大事の前の小事ぐらいに考えるんでしょうか。わたしたちはお互いに庄屋ですからね。下から見上げればこそ、こんな議論が出るんですよ。」
「とにかく、寿平次さん――西洋ははいり込んで来ましたね。考うべき時勢ですね。」