GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』
現代語化
「政府が貿易で儲けた金を自分たちで独占してるから、攘夷がうるさくなったんだって。毎年利益の額を決めて、朝廷や公卿や藩に公平に分配してれば、上も下も喜んだだろうし、世の中はこんなに不平不満でいっぱいにならなかったかもしれないんだって。」
「政府が貿易の利益を独り占めにしていいわけないだろ?」
「それが、そういうことを言ってるのが英国公使のアールコックだっていうんだぜ。」
「なるほど、そう言われりゃいろいろ思い当たるな。」
「外国人向けの大きな遊郭も横浜に許可されてるし。」
「生麦事件の賠償金だって考えりゃわかるよ。」
「政府が金に困ってるのに、十万ポンドもどこから出すんだ?幕府の役人たちが開港に固執したのも当然だろ。」
「半蔵さん。攘夷論がうるさくなったのは、そもそもいつごろだったっけ?幕府の偉い奴が英国公使に愛人を差し出したとかで騒がれた時だったろ?」
「尊王攘夷ってのは、利害関係とかじゃなくて、宗教みたいなもんで、成敗とか得とか損とか関係なくやってるんだろうよ。」
「今はそうかもしれんが、これから先はどうなるか知らね?」
「まあ、西の方へ行ってみなよ。公卿も武士も超現実的だぜ。水戸の人たちみたいに、あれこれこだわってないよ。」
「京都行って帰ってきてから、君たちの話まで変わってきたよ。」
原文 (会話文抽出)
「こういう説もあります。」
「政府がひとりで外国貿易の利益を私するから、それでこんなに攘夷がやかましくなった。一年なら一年に、得るところを計算してですね、朝廷へ何ほど、公卿へ何ほど、大小各藩へ何ほどというふうに、その額をきめて、公明正大な分配をして来たら、上御一人から下は諸藩の臣下にまでよろこばれて、これほど全国に不平の声は起こらなかったかもしれない。今になって君、そういうことを言い出して来たものもありますよ。」
「政府ばかりが外国貿易の利益をひとり占めにする法はないか。」
「ところが、そういうことを言い出して、政府のお役人に忠告を試みたのが、英国公使のアールコックだといううわさだからおもしろいじゃありませんか。」
「いや、」
「そう言われると、いろいろ思い当たることはありますよ。」
「横浜には外国人相手の大遊郭も許可してあるしね。」
「あの生麦償金のことを考えてもわかります。」
「見たまえ、この苦しい政府のやり繰りの中で、十万ポンドという大金がどこから吐き出せると思います。幕府のお役人が開港を固執して来たはずじゃありませんか。」
「半蔵さん。攘夷論がやかましくなって来たそもそもは、あれはいつごろだったでしょう。ほら、幕府の大官が外国商人と結託してるの、英国公使に愛妾をくれたのッて、やかましく言われた時がありましたっけね。」
「そりゃ、尊王攘夷の大争いにだって、利害関係はついて回る。横浜開港以来の影響はだれだって考えて来たことですからね。でも、尊攘と言えば、一種の宗教運動に似たもので、成敗利害の外にある心持ちから動いて来たものじゃありますまいか。」
「今日まではそうでしょうがね。しかし、これから先はどうありましょうかサ。」
「まあ、西の方へ行って見たまえ。公卿でも、武士でも、驚くほど実際的ですよ。水戸の人たちのように、ああ物事にこだわっていませんよ。」
「いや、京都へ行って帰って来てから、君らの話まで違って来た。」