GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』
現代語化
「今だから白状しますが、横浜貿易のことが災いしたのか、どこに行っても評判が悪い。これには僕も参りましたよ。あの時、君たちに相談しなかったのは、僕が悪かった。横浜の話はもうしないでください」
「そう言っていただくとありがたいです。実は、私はこういう日が来るのを待っていました」
「半蔵さん、君の前ですが、伊那に行ったら自分でも何を持ってるのかわからなくなりました。おまけに、医者はやらず、塾の生徒も来ず。まあ3年間で得たものと言えば、『古史伝』の出版を手伝ったくらいです。前島正弼、岩崎長世、北原稲雄、片桐春一、伊那にいる平田先生の弟子仲間はみんなあの仕事を頑張ってますよ。あの出版は評判も良くて、津和野藩あたりからも手紙が来るんだって。伊那の人たちはすごい意気込みです。そういえば、暮田正香が京都から逃げてきた時、君の家にもお世話になったんでしたっけ」
「そうでした。着流しで雪駄履きで、家に来た時は、私もびっくりしました」
「あの人も思い切ったことをしましたよね。足利将軍の木像の首を落とすなんて。あの出来事には師岡正胤も関わってるから、仲間を救い出せってんで、伊那からもわざわざ運動のために京都まで行った奴もいましたよ。暮田正香も今は隠れ身ですが、あの人だから、京都の仲間と協力して伊那で一旗揚げるなんて、きっと黙ってはいられないでしょうね。とにかく、僕が伊那に行った時と、今は全く違います。あの田舎も騒がしい」
原文 (会話文抽出)
「いや、伊那の三年は大失敗。」
「今だから白状しますが、横浜貿易のことが祟ったと見えて、どこへ行っても評判が悪い。これにはわたしも弱りましたよ。あの当時、君らに相談しなかったのは、わたしが悪かった。横浜の話はもう何もしてくださるな。」
「そう先生に言っていただくとありがたい。実は、わたしはこういう日の来るのを待っていました。」
「半蔵さん、君の前ですが、伊那へ行ってわたしは自分の持ってるものまで失っちまいましたよ。おまけに、医者ははやらず、手習い子供は来ずサ。まあ三年間の土産と言えば、古史伝の上木を手伝って来たくらいのものです。前島正弼、岩崎長世、北原稲雄、片桐春一、伊那にある平田先生の門人仲間はみんなあの仕事を熱心にやっていますよ。あの出板は大変な評判で、津和野藩あたりからも手紙が来るなんて、伊那の衆はえらい意気込みさ。そう言えば、暮田正香が京都から逃げて来る時に、君の家にもお世話になったそうですね。」
「そうでした。着流しに雪駄ばきで、吾家へお見えになった時は、わたしもびっくりしました。」
「あの先生も思い切ったことをやったもんさ。足利将軍の木像の首を引き抜くなんて。あの事件には師岡正胤なぞも関係していますから、同志を救い出せと言うんで、伊那からもわざわざ運動に京都まで出かけたものもありましたっけ。暮田正香も今じゃ日陰の身でさ。でも、あの先生のことだから、京都の同志と呼応して伊那で一旗あげるなんて、なかなか黙ってはいられない人なんですね。とにかく、わたしが出かけて行った時分と、今とじゃ、伊那も大違い。あの谷も騒がしい。」