GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『名人長二』
現代語化
「いや、これは岩村先生……ご無沙汰しております」
「それはお帰りですか、意外なお便りで、まことに恐縮いたしました」
「お元気かと折に触れてお噂しておりましたが、まあお変わりなくお元気そうで何よりです」
「いやはや実は変わり果てておりまして、大変恐縮なのですが、ただいま家内へその事情を説明していたところなんです、本当に顔から火が出る思いですが、田舎で困窮して出府したところ、頼りにしていた木陰に雨が漏れる始末で、龜甲屋さんの一件で進退窮まってしまい、やむなく参上した次第です、老人の身の上をお気の毒に思召して、どうかお救いいただけますよう」
「なるほど、それはお困りでしょうが、近頃は以前とは違って資金繰りが厳しいもので、残念ながらご期待に添えません」
「これは心ばかりですが、路銀としてお受け取りください」
「はい/\本当に恐縮いたします」
「ふうん、これはたった200文ですね、もう少しお考えくださっては」
「2分では少ないとおっしゃるのですか」
「その通りです、こればかりの金が何ほどのものでしょう」
「ですから路銀だと言っているのです、2分の草鞋があれば、京都まで2、3度行けます」
「しかし私が履く草鞋は高価なので、200文ではとても田舎にも帰れませんよ」
「ではいくらご入り用ですか」
「大幅に負けて、わずか100両ばかりお借りしたいのです」
「おやおや驚いた」
「岩村さん、とんでもないことを言うな、なぜ100両も貸せというのだ、私はあなたにそんなお金を貸す義理はない」
「なるほど義理はないかもしれませんが、龜甲屋のご夫婦が亡くなった暁には、昔の馴染みのこちらに頼るよりほかはありませんので」
「昔馴染みだからこそ2分を貸したのです、そうでなければ100文もあげなかったでしょう、少ないとお考えなら止めておきましょうか」
「よろしい、こちらでも止めましょう、恐れながら没落しても岩村玄石です、先年売った名前がありますから、秘術鍼治の看板を掲げれば、5両や10両の金はあっという間に稼げるのはわかっています、しかし見苦しい家を借りたいわけではなく、資本金を借りたのです、あなたがそのようにお考えになるなら、貸そうと言っていただいてももう借りませんよ」
「それは幸いだ、2分棒にふるところだった、ばかげている」
「なんとばかげているとは、何ですか、あなたは昔の事を忘れたのですか、物覚えの悪い人たちだ、心しておくように言っておくが、あなたは龜甲屋に奉公中、ご新造に愛人を斡旋して、口止め料でもらった鼻薬を少しずつためて小金貸しを始めた、それからだんだん欲が強くなって、ご新造がくすねた金を横流しして、5両一の下金貸しを始めた、貧乏人の首を絞めて高利を貪って築いた財産、溜まるほど汚くなる灰吹みたいなあなたの金だ、かりに借りても返さないつもりなのに、何ですか金比羅詣りみたいな銭貰いの扱い、路銀とは失礼千万、たとえ金を貸さなくても、遠くから来て、久しぶりにお訪ねになったのです、こんな家には泊まらないと思いますが、お疲でしょうから一泊なさいとか、また鹿角菜に油揚げのお惣菜では召し上がらないと思いますが、時間だからご飯をとか、世間話をするのが筋なのに、老人の私をここまで軽蔑するのはひどすぎますよ」
「おやおや大そうお張りですね、何ですか」
「お由黙っていろ、ゆすりだ」
「なにゆすりだ、私がゆすりならあなたは人殺しの提灯持ちだ」
「やあ、とんでもないことを言う奴だ、何の人殺しだ」
「聞きたければ話してあげようが、あなたは龜甲屋の旦那の病気中に、私に依頼したことを忘れたのですか」
「これは、それを言うのなら先生も同罪ですよ、まあ落ち着いてください、人に聞かれるとよくありませんから」
「それはじゅうじゅう承知です、こんなことは言いたくはありませんが、あまりにもあなた方が意地悪でケチだからですよ」
「それじゃああなたは虫がいいというものです、先生あなたあのときご新造から100両もらったじゃありませんか」
「100両ばかりはどうなりますか、なくなりましたよ、また100両また100両と、1000両くらいは順次もらえると思って出てきたら、天罰は恐ろしいもので、2人とも他人に殺されてしまったというから、これからは悪事はしないように改心したのですが、肝心の金庫がなくなっていることがわかると、玄石はほとんど路頭に迷う始末で、やむなく幸いにも罪を逃れているあなた方に、助けを求めたのです」
「それでも私にを一筆というのはあまりに大それた金額だ」
「無理になさるのは困りますが、そのお金がないと玄関を開くこともできないし、また故郷に帰る面目もありません、路傍に餓死するよりはむしろ自首して、罪に服した方が来世のためになるだろうと覚悟したのです、その時はあなた方に迷惑をかけるでしょうが、あなた方から依頼されてこの通りにしたと訴えるつもりですから、その覚悟をしておいてもらわなければなりませんが、よろしいですか」
原文 (会話文抽出)
「おや大層早かったねえ」
「いや、これは岩村先生……まことにお久しい」
「イーヤお帰りですか、意外な御無音、実に謝するに言葉がござらんて」
「何うなさったかと毎度お噂をして居りましたが、まアお変りもなくて結構です」
「ところがお変りだらけで不結構という次第を、只今御内方へ陳述いたして居るところで、実に汗顔の至りだが、国で困難をして出府いたした処、頼む樹陰に雨が漏るで、龜甲屋様の変事、進退谷まったので已むを得ず推参いたした訳で、老人を愍然と思召して御救助を何うか」
「成程、それはお困りでしょうが、当節は以前と違って甚い不手廻りですから、何分心底に任しません」
「これは真の心ばかりですが、草鞋銭と思って何うぞ」
「はい/\実に何とも恐縮の至りで」
「フン、これは唯た二百疋ですねえ、もし宜く考えて見ておくんなさい」
「二分では少いと仰しゃるのか」
「左様さ、これッばかりの金が何になりましょう」
「だから草鞋銭だと云ったのだ、二分の草鞋がありゃア、京都へ二三度行って帰ることが出来る」
「ところが愚老の穿く草鞋は高直だによって、二百疋では何うも国へも帰られんて」
「そんなら幾許欲いというのだ」
「大負けに負けて僅か百両借りたいんで」
「おやまア呆れた」
「岩村さん、お前とんでもねえ事をいうぜ、何で百両貸せというのだ、私アお前さんにそんな金を貸す因縁はない」
「成程因縁はあるまいが、龜甲屋の御夫婦が歿った暁は、昔馴染の此方へ縋るより外に仕方がないによって」
「昔馴染だと思うから二分はずんだのだ、左様でなけりゃア百もくれるのじゃアない、少いというなら止しましょうよ」
「宜しい、此方でも止しましょう、憚りながら零落しても岩村玄石だ、先年売込んだ名前があるから秘術鍼治の看板を掲けさいすれば、五両や十両の金は瞬間に入いって来るのは知れているが、見苦しい家を借りたくないから、資本を借りに来たのだが、貴公が然ういう了簡なら、貸そうと申されてももう借用はいたさぬて」
「そりゃア幸いだ、二分棒にふるところだった、馬鹿/\しい」
「何だ馬鹿/\しいとは、何だ、貴公達は旧の事を忘れたのか、物覚えの悪い人たちだ、心得のため云って聞かせよう、貴公達は龜甲屋に奉公中、御新造様に情夫を媒介って、口止に貰った鼻薬をちび/\貯めて小金貸、それから段々慾が増長し、御新造様のくすねた金を引出して、五両一の下金貸、貧乏人の喉を搾めて高利を貪り仕上げた身代、貯るほど穢くなる灰吹同前の貴公達の金だ、仮令借りても返さずには置かないのに、何だ金比羅詣り同様な銭貰いの取扱い、草鞋銭とは失礼千万、たとい金は貸さないまでも、遠国から出て来て、久しぶりで尋ねて来たのだ、此様な家へ泊りはしないが、お疲れだろうから一泊なさいとか、また鹿角菜に油揚の惣菜では喰いもしないが、時刻だから御飯をとか世辞にも云うべき義理のある愚老を、軽蔑するにも程があるて」
「おや大層お威張りだねえ、何ですとアノ」
「お由黙っていろ、強請だから」
「なに強請だ、愚老が強請なら貴公達は人殺の提灯持だ」
「やア、とんだ事をいう奴だ、何が人殺だ」
「聞きたくば云って聞かせるが、貴公達は龜甲屋の旦那の病中に、愚老へ頼んだことを忘れたのか」
「これサ、それを云やア先生も同罪だぜ、まア静かにおしなさい、人に聞かれると善くないから」
「それは万々承知さ、此様なことは云いたくは無いが、余り貴公達が因業で吝嗇だからさ」
「それじゃお前さん虫がいゝというもんだ、先生お前さん彼の時御新造から百両貰ったじゃアありませんか」
「百両ばかり何うなるものか、なくなったによって、又百両又百両と、千両ばかり段々に貰う心得で出て来て見ると、天道様は怖いもので、二人とも人手にかゝって殺されたというから、向後悪事はいたさぬと改心をしたが、肝腎の金庫が無くなって見ると、玄石殆んど路頭に迷う始末だから、已むを得ず幸いに天網を遁れて居る貴公達へ、御頼談に及んだのさ」
「それでも私にア一本という大金は」
「出来ないというのを無理にとは申さんが、其の金が無い時は玄関を開く事も出来ず、再び郷里へ帰る面目もないによって、路傍に餓死するより寧ろ自から訴え出て、御法を受けた方が未来のためになろうと観念をしたのさ、其の時は御迷惑であろうが、貴公達から依頼を受けて斯々いたしたと手続きを申し立てるによって、その覚悟で居ってもらわんければならんが、宜しいかね」