三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「父さま、今帰ったよ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「父さん、帰って来たよ」
「どこ行ってたんだ」
「薬を取りに行ったんだけど、医者さんが『あの人には厳しい』って言ってたよ」
「困ったなあ。二人が旅してきたから泊めたんだけど、男の方は亭主か何かよくわからないけど、あのおっさんが死んだら遺されるのはあの子だけだ。長らく泊めてるし、病人がいるのに宿代を催促するのもできないから、仕方なく我慢してたんだ。でも、医者代の礼金から宿代まで、あのおっさんが死んだ日にゃあ困るよ。着の身着のままで、まともな荷物もないだろうから、宿代を払う金なんてないだろう。すごく心配だ。厄介なやつを泊めてしまったもんだ。死なれたら困るなあ」
「それについて相談しようと思ってたんだ。俺も今年25になるし、いつまでも独身でいるわけにもいかない。誰かに言わせると、破れ鍋に綴じ蓋だっていうから、早く女房をもてって友達が言うんだ。それで女房をもらおうと思うんだけど、仲人が入ってよそから娘をもらってくるのだと、面倒くさいし気が引けるから、あれこれ話を聞いたら、あのおっさんが死んだら、俺には頼れる人もいなくて心細いだって言うから、あの子は泣いてたんだ」
「浪人だって…うん」
「どうせどこからもらうのも同じことだから、あのおっさんが死んだら、あの子を俺の女房にもらえないかな。身一つだろうけど、他人の世話にならなくていいし、すぐに嫁に来てくれるだろう。あの子をもらってくれないか、父さん」
「ばかやろう、だから困るって言ってるんだ。お前に言っておくが、俺は江戸の深川で生まれて、悪いことをして食い詰め、甲州に行ってどうにか金が稼げるようになったけど、結局悪いことがバレて、ここに逃げてきたんだ。それで縁あって、お前の亡くなった母親と夫婦になって、お前という子も生まれた。甲州屋という看板を掲げて、宿屋と木賃宿を兼業して、なんとか暮らしてるのはみんな知ってる。お前はここで育ったから世間のことは知らないだろうけど、家に財産はないけど、宿屋の看板でこの程度の住まいをしているから、それほどの貧乏人だとは思われてない。どこから嫁をもらうにしても、箪笥とか長持とかが付いてくるだろう。顔が悪ければ田地くらい持ってくるのが普通だ。顔がのっぺりしていても、あんな素性の知れないやつをむやみに連れてきてどうするんだ。医者代の礼金まで自分が負担することになるぞ」
「それはそうだけど、よそから嫁をもらうと田地がついてくる、金がついてくるってったって、家に呼んで、あとで気が合わなかったら意味ないじゃん。だから自分が気に入ったやつをもらえば、家がまとまるし、夫婦仲もよくなるんじゃない?もらわせてよ」
「何をばかなこと言ってやがる。お前は最近、ろくでもないものばかり買って無駄遣いしてるなと思ったよ。あんなやつがもらえるか」
「そんなに怒らなくてもいいじゃん。相談してるんだから」
「相談だって、お前も24、5になって、ぶらぶら遊んでて、親の脛ばかりかじってやがる。親の脛をかじってるうちは親の自由だ。お前の勝手に気に入った女をもらえると思うな」
「脛をかじるって言うけど、俺はずっと父の脛ばかりかじってるわけじゃない。お客さんがいればいろいろ手伝って、お湯を運んだり、草鞋を脱がせたり、汚いものを手であずけたり、風呂を沸かして背中を流したり、全部家のためにやってるんだ。脛かじりだなんて言わないでくれよ」
「うるせえなあ」

原文 (会話文抽出)

「父さま、今帰ったよ」
「何処へ行ってた」
「なに医者の処へ薬を取りに行って聞いたが、医者殿が彼の病人はむずかしいと云っただ」
「困ったのう、二人旅だから泊めたけれども、男の方は亭主だか何だか分らねえが、彼がお前死んでしまえば、跡へ残るのは彼の小娘だ、長え間これ泊めて置いたから、病人の中へ宿賃の催促もされねえから、仕方なしに遠慮していたけんど、医者様の薬礼から宿賃や何かまで、彼の男が亡くなってしまった日にゃア、誠に困る、身ぐるみ脱だって、碌な荷物も無えようだから、宿賃の出所があるめえと思って、誠に心配だ、とんだ厄介者に泊られて、死なれちゃア困るなア」
「それに就て父に相談打とうと思っていたが、私だって今年二十五に成るで、何日まで早四郎独身で居ては宜くねえ何様者でも破鍋に綴葢というから、早く女房を持てと友達が云ってくれるだ、乃で女房を貰おうと思うが、媒妁が入って他家から娘子を貰うというと、事が臆劫になっていかねえから、段々話い聞けば、あの男が死んでしまうと、私は年が行かないで頼る処もない身の上だ、浪人者で誠に心細いだと云っちゃア、彼の娘子が泣くだね」
「浪人者だと…うん」
「どうせ何処から貰うのも同じ事だから、彼の男がおっ死んだら、彼の娘を私の女房に貰えてえだ、裸じゃアあろうけれども、他人頼みの世話がねえので、直にずる/\べったりに嫁っ子に来ようかと思う、彼を貰ってくんねえか父」
「馬鹿野郎、だから仕様がねえと云うのだ、これ、父はな、江戸の深川で生れて、腹一杯悪い事をして喰詰めっちまい、甲州へ行って、何うやら斯うやら金が出来る様になったが、詰り悪い足が有ったんで、此処へ逃げて来た時に、縁があって手前の死んだ母親と夫婦になって、手前と云う子も出来て、甲州屋という、ま看板を掛けて半旅籠木賃宿同様な事をして、何うやら斯うやら暮している事は皆なも知っている、手前は此方で生立って何も世間の事は知らねえが、家に財産は無くとも、旅籠という看板で是だけの構えをしているから、それ程貧乏だと思う人はねえ何処から嫁を貰っても箪笥の一個や長持の一棹ぐらい附属いて来る、器量の悪いのを貰えば田地ぐらい持って来るのは当然だ、面がのっぺりくっぺりして居るったって、あんな素性も分らねえ者を無闇に引張込んでしまって何うするだ、医者様の薬礼まで己が負わなければなんねえ」
「それは然うよ、それは然うだけれど、他家から嫁子を貰やア田地が附いて来る、金が附いて来るたって、ま宅へ呼ばって、後で己が気に適らねえば仕様がねえ訳だ、だから己が気に適ったのを貰やア家も治まって行くと、夫婦仲せえ宜くば宜いじゃアねえか、貰ってくんろよ」
「何を馬鹿アいう手前が近頃種々な物を買って詰らねえ無駄銭を使うと思った、あんな者が貰えるか」
「何もそんなに腹ア立てねえでも宜い相談打つだ」
「相談だって手前は二十四五にも成りやアがって、ぶら/\遊んでて、親の脛ばかり咬っていやアがる、親の脛を咬っている内は親の自由だ、手前の勝手に気に適った女が貰えるか」
「何ぞというと脛え咬る/\てえが、父の脛ばかりは咬っていねえ、是でもお客がえら有れば種々な手伝をして、洗足持ってこ、草鞋を脱がして、汚え物を手に受けて、湯う沸して脊中を流してやったり、皆家の為と思ってしているだ、脛咬りだ/\てえのは止してくんろえ」
「えゝい喧しいやい」


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