三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「旦那さま、貴方は実にお気の毒さまでごぜえ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「旦那様、あなたはお気の毒すぎます」
「なに……おい、この奴は狂気しているのか。お前が私を気の毒だと思っているのか。この皿を20枚割るとは……昔から御先祖からのお遺言状のことも少しは聞いているだろう。仮に気が狂っていても、このままにはしておかないぞ」
「はい、私は気が狂っているわけではありません。元よりあなたに斬られて死ぬ覚悟で、承知の上で大切な皿をすべて打ち砕きました。もし旦那様、私は生国は忍の行田の里で生まれた者です。幼い時に両親が亡くなり、知り合いの人に連れられてこの美作国に参りましたが、どこが身元ということもなく過ごしておりましたが、縁あって5年前にあなたのお屋敷に奉公に参りました。長い間お世話になり、高い給金もいただきました。あなたのそばにいてみると、誠にどうにもあなたは衆人にも気を配り、行き届きもよく、どうも立派な旦那様ですが、この20枚の皿がこの家の害なのです。いや、腹を立てないでください。私は逃亡はしません。もともと斬られる覚悟でした。しかし、私だって斬られまいと思えば、あなた親子二人がかりで斬ると言っても、指1本でも切らせてなるものじゃありません。大層怪力がございますが、あなたのお屋敷で米つき奉公をしておりました私は、何も知らない田舎者で、何の分別もありませんが、村の神主様のお説教を聞きに行くと、人は天が下の霊物で、万物の長だ、これより尊いものはない、有情物の主宰だと申し上げられます。だから、まず朝廷ができても、政治なさる公方様ができても、この美作一国の御領主様ができても、勝山様でも津山様でも、みな人間が政治を執るのだと思います。皿が政治を執ったという話は昔から聞いたことがありません。どのような器物でも人間が発明して作ったものです。人間がいればこそ沼を埋めたり、山を崩したり、川に橋をかけたり、田畑を開墾するから、五穀も実って、あなたも私も命をつないで、物を食べて生きていられるのです。その大切な人間が、不用意に皿を割ったからといって、指を切って不具にするという御先祖様の御遺言を守るから、私はあなたを悪くは思いません。物堅い人ですが、あまりに堅すぎるのです。愚直というものです。それ、腹を立てちゃいけません。どうせ一度腹を立ててしまって、そうして私を打ち斬るのがよいでしょうが、あなたがそれを守っているから、この村ばかりじゃありません。近郷の者までがあなたのことを何と申します。ああ、東山殿は偉い豪士だが、家宝だという大切な宝物だって、あれを打ち砕けば指を切る、足を切るって、人を不具にするひどいことをする。東山殿という奴は悪人だと人に言わせるように、御先祖様が遺言状をお書きになったのです。そうじゃありませんか。それで、どうも私も奉公しておりますから、人に主人のことを悪党だとか非道だとか言われればあまり愉快ではありません。御先祖様の遺言があるから、あなたはそれを守り抜いて、証文を取って奉公させると、中にはまた食べるや食べずで仕様がない、なに指くらい切られたって、高い給金をもらって命をつなげばいい。なに指を切ったって命にはかかわらないからって、納得して奉公にやってくる人が、つい不用意に皿を打ち砕くと、親からもらった大切な身体に傷をつけて、不具になるものがいます。実に気の毒ではないですか。それもみなこの皿のせいなのです。この皿がある間は末代までも止まりません。この皿さえなければいいのにと私は考えて、前から心配しておりました。ところがあれこれ聞きますと、お千代という娘は年齢も若くないのに、お母様が具合が悪いので、いい薬を飲まないと治らない、どうかお母様を助けたい。仮に指を切られることになっても、奉公して人参を買うだけのお金がほしいと、親子相談の上で証文に印鑑を押し、奉公に来た者が今指を切られることになって、誠に気の毒だと思いましたから、私がこの20枚の皿を全部打ち砕いてしまったのです。20人の代わりに私1人が死ねば、残りの20人は助かります。それに、こうして大切な皿を打ち砕いてしまえば、元はただの土の塊です。金であろうと銀であろうと、ただのカタチを作って、この世の中のお金の代わりとして使っているだけのものではないかと考えます。金であろうと銀であろうと、人間ほど大切なものではないから、幕府でも人間を殺せばまたその人を殺します。それでもなお助けたいという気持ちがあるので、なんとか御法事と名前をつけて助かることもございますし、首を打たれるやつでも遠島で済ませると言いますのも、つまり人間が大切だから、幕府でもそうしてくださるのです。それをむやみに打ち斬るとは情けない話です。あなたの御先祖様は東山将軍義政様からいただいた、東山という大切な御苗字だということを、米をつきながら陰で聞いて知っておりましたが、あの東山殿は非道だ。土の塊と人間を同じように考えていると言われては、その東山義政様のお名前まで汚すようなことになって、あなたはお済まされないと考えますが、ぜひともこの風習をやめさせたくても、ほかに考えがありませんでした。それならいっそのこと、禍の根源を絶とうと思って砕いてしまったのです。私1人が死んで20人が助かれば本望です。私も若い時には、心得違いも大いにありましたが、ようやくこの頃本山寺様へ行って、お説法を聞いて、この頃少し心も直ってきましたので、大勢の人の代わりに私1人が死にます。どうかその代わり、お千代さんを助けてやってください。親孝行なこのような人は国の宝で、土の塊とは違います。さあ、私を斬ってください。親戚兄弟も親も何もいない身の上ですから、別に心を残すこともありません。さあ、斬っておいてください」

原文 (会話文抽出)

「旦那さま、貴方は実にお気の毒さまでごぜえます」
「なに……いよ/\此奴は狂気致して居る、手前気の毒ということを存じて居るかい、此の皿を二十枚砕くと云うのは……予て御先祖よりの御遺言状の事も少しは聞いているじゃアないか、仮令気違でも此の儘には棄置かんぞ」
「はい、私ア気も違いません、素より貴方さまに斬られて死ぬ覚悟で、承知して大事のお皿を悉皆打毀しました、もし旦那さま、私ア生国は忍の行田の在で生れた者でありやすが、少さい時分に両親が亡なってしまい、知る人に連れられて此の美作国へ参って、何処と云って身も定まりやしねえで居ましたが、縁有って五年前当家へ奉公に参りまして、長え間お世話になり、高え給金も戴きました、お側にいて見れば、誠にどうも旦那さまは衆人にも目をかけ行届きも能く、どうも結構な旦那さまだが、此の二十枚の皿が此処の家の害だ、いや腹アお立ちなさるな、私は逃匿れはしねえ、素より斬られる覚悟でした事だが、旦那さま、あんた此の皿はまア何で出来たものと思召します、私ア土塊で出来たものと考えます、それを粗相で毀したからとって、此の大事な人間の指い切るの、足い切るのと云って人を不具にするような御遺言状を遺したという御先祖さまが、如何にも馬鹿気た訳だ」
「黙れ、先祖の事を悪口申し、尚更棄置かんぞ」
「いや棄置かねえでも構わねえ、素より斬られる覚悟だから、併し私だって斬られめえと思えば、あんた方親子二人がゝりで斬ると云っても、指でも附けさせるもんじゃアねえ、大けい膂力が有るが、御当家へ米搗奉公をしていて、私ア何も知んねえ在郷もんで、何の弁別も有りやしねえが、村の神主さまのお説教を聴きに行くと、人は天が下の霊物で、万物の長だ、是れより尊いものは無い、有情物の主宰だてえから、先ず禁裏さまが出来ても、お政治をなさる公方様が出来ても、此の美作一国の御領主さまが出来やしても、勝山さまでも津山さまでも、皆人間が御政治を執るのかと私は考えます、皿が政治を執ったてえ話は昔から聞いた事がねえ、何様な器物でも人間が発明して拵えたものだ、人間が有ればこそ沼ア埋めたり山ア掘崩したり、河へ橋を架けたり、田地田畠を開墾するから、五※も実って、貴方様も私も命い継いで、物を喰って生きていられるだア、其の大事なこれ人間が、粗相で皿ア毀したからって、指を切って不具にするという御先祖様の御遺言を守るだから、私ア貴方を悪くは思わねえ、物堅え人だが余り堅過ぎるだ、馬鹿っ正直というのだ、これ腹ア立っちゃアいけねえ/\、どうせ一遍腹ア立ってしまって、然うして私を打斬るが宜うがすが、それを貴方が守ってるから、此の村ばっかりじゃアない、近郷の者までが貴方の事を何と云う、あゝ東山は偉い豪士だが、家に伝わる大事な宝物だって、それを打毀せば指い切るの足い切るのって、人を不具にする非道な事をする、東山てえ奴は悪人だと人に謂わせるように、御先祖さまが遺言状を遺したアだね、然うじゃアごぜえませんか、乃でどうも私も奉公して居るから、人に主人の事を悪党だ非道だと謂われゝば余まり快くもごぜえません、御先祖さまの遺言が有るから、貴方はそれを守り抜いてゝ、証文を取って奉公させると、中には又喰うや喰わずで仕様がねえ、なに指ぐらい打切られたって、高え給金を取って命い継ごう、なに指い切ったってはア命には障らねえからって、得心して奉公に来て、つい粗相で皿を打毀すと、親から貰った大切な身体に疵うつけて、不具になるものが有るでがす、実にはア情ねえ訳だね、それも皆な此の皿の科で、此の皿の在る中は末代までも止まねえ、此の皿さえ無ければ宜いと私は考えまして、疾から心配していました、所で聞けば、お千代どんは齢もいかないのに母さまが塩梅が悪いって、良い薬を飲まねば癒らない、どうか母さまを助けたい、仮令指を切られるまでも奉公して人参を買うだけの手当をしてえと、親子相談の上で証文を貼り、奉公に来た者を今指い切られる事になって、誠にはア可愛そうにと思ったから、私が此の二十枚の皿を悉皆打砕いたが、二十人に代って私が一人死ねば、余の二十人は助かる、それに斯うやって大切な皿だって打砕けば原の土塊だ、金だって銀だって只形を拵えて、此の世の中の手形同様に取遣りをするだけの物と考えます、金だって銀だって人間程大切な物でなえから、お上でも人間を殺せば又其の人を殺す、それでも尚お助けてえと思う心があるので、何とやらさまの御法事と名を付けて助かる事もありやす、首を打斬る奴でも遠島で済ませると云うのも、詰り人間が大切だから、お上でも然うして下さるのだ、それを無闇に打斬るとは情ねえ話だ、あなたの御先祖さまは東山将軍義政さまから戴いた、東山という大切な御苗字だという事は米を搗きながら蔭で聞いて知って居ますが、あの東山は非道だ、土塊と人間と同じ様に心得ていると云われたら、其の東山義政のお名前までも汚すような事になって、貴方は済むめえかと考えますが、何卒して此の風儀を止めさせてえと思っても、他に工夫が無えから、寧そ禍の根を絶とうと打砕いてしまっただ、私一人死んで二十人助かれば本望でがす、私も若え時分には、心得違えもエラ有りましたが、漸く此の頃本山寺さまへ行って、お説法を聞いて、此の頃少し心も直って参りましたから、大勢の人に代って私一人死にます、どうか其の代り、お千代さんを助けてやって下せえまし、親孝行な此様な人は国の宝で土塊とは違います、さ私を斬って下せえまし、親戚兄弟親も何も無え身の上だから、別に心を置く事もありません、さ、斬っておくんなせえまし」


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