佐々木味津三 『山県有朋の靴』 「平七。――これよ、平七平七」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『山県有朋の靴』

現代語化

「平七。――おい、平七平七」
「…………」
「耳遠いな。平七はどこだ。平はいないのか!」
「はいはい。平はこちらにおりますんで、只今、靴を磨いております」
「庭に来い」
「はいはい。最近また東京に、やたら美人が増えたそうで、困ったことになりましたな」
「またそんなことを言う。お前も少し謙虚になって、態度もだんだんと良くなって来たと思ったら、すぐに今のようにトゲを出すな。いくらトゲを出したところで、もうお前らみたいな貧乏旗本の天下は来ないぞ」
「そうなんですかねえ……」
「そうなんですかねえとは何だ。そんな言い方をするから、お前はいつも叱られるんだ。お前は郵便報知という新聞を知っているか?」
「新聞社でございますか」
「そうだ。あいつは最近またひどい。お前、今行って詰め寄ってこい」
「何を詰め寄るんですか?」
「俺のことを、この頃また狂介々々と呼び捨てにして、ひどい新聞だ。山県有朋という立派な名前があるのに、わざわざ昔のあだ名を引っ張り出してきて、あれこれ冷やかして書くのはやめろ。新聞が先に立って、狂介々々と呼び捨てにするから、町の人までが、やれ狂介権助丸儲けだ、萩のお萩がどうだ、こうだと、くだらないことばかり言うようになるんだ。ひどすぎる。今すぐ行って、しかと詰め寄ってこい」
「どう詰め寄ったらいいんですか。控えろ、町人、首が飛ぶぞ、とでも脅すんですか?」
「バカだな。山県有朋から使いが来た、と聞けば、俺が今どんな役職に就いているか、陸軍、兵部大輔という役職が、お前が何も言わなくても、相手には分かるはずだ。さっさと行け」
「はいはい。では行ってきますが、もう夕方近いので、帰りは少し遅くなるかもしれません。今夜もまた、こちらですか。それともご自宅の方へお帰りですか」
「そんなつまらないことは聞かなくていい。遅く帰って、俺の姿がここに見えなかったら、自宅に帰ったと思えばいい。そう思ったらお前も自宅に帰ればいい。早く出かけろ」
「…………」

原文 (会話文抽出)

「平七。――これよ、平七平七」
「…………」
「耳が遠いな。平七はどこじゃ。平はおらんか!」
「へえへえ。平はこっちにおりますんで、只今、お靴を磨いておりますんで」
「庭へ廻れ」
「へえへえ。近ごろまた東京に、めっきり美人がふえましたそうで、弱ったことになりましたな」
「またそういうことを言う。貴様、少うし腰も低くなって、気位もだんだんと折れて来たと思ったらじきに今のような荊を出すな。いくら荊を出したとて、もう貴様等ごとき痩せ旗本の天下は廻って来んぞ」
「左様でございましょうか……」
「左様でございましょうかとは何じゃ。そういう言い方をするから、貴様、いつも叱られてばかりいるのじゃ。おまえ、郵便報知というを知っておろうな」
「新聞社でございますか」
「そうじゃ。あいつ、近ごろまた怪しからん。貴様、今から行ってネジ込んで参れ」
「なにをネジ込むんでございますか」
「わしのことを、このごろまた狂介々々と呼びずてにして、不埒な新聞じゃ。山県有朋という立派な名前があるのに、なにもわざわざ昔の名前をほじくり出して、なんのかのと、冷やかしがましいことを書き立てんでもよいだろう。新聞が先に立って、狂介々々と呼びずてにするから、市中のものまでが、やれ狂介権助丸儲けじゃ、萩のお萩が何じゃ、かじゃと、つまらんことを言い囃すようになるんじゃ。怪しからん。今からすぐにいって、しかと談じ込んで参れ」
「どういう風に、談じ込むんでございますか。控えろ、町人、首が飛ぶぞ、とでも叱って来るんでございますか」
「にぶい奴じゃな。山県有朋から使いが立った、と分れば、わしが現在どういう職におるか、陸軍、兵部大輔という職が、どんなに恐ろしいものか、おまえなんぞなにも申さずとも、奴等には利き目がある筈じゃ。すぐに行け」
「へえへえ。ではまいりますが、この通りもう夕ぐれ近い時刻でございますから、かえりは少々おそくなるかも存じませんが、今夜もやはり、こちらでございますか。それとも御本邸の方へおかえりでございますか」
「そんなつまらんことも聞かんでいい。おそくかえって、わしの姿がここに見えなかったならば、本邸へかえったと思うたらよかろう。思うたらおまえもあちらへかえったらよかろう。早く出かけい」
「…………」


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