GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『流行暗殺節』
現代語化
「…………」
「旦那以外の男なんて入れたことない布団の中に入れちまったら、紙一枚の違いとはいえ、浮気したのも同然なんすよ。そこを一本、詰めたら、あの女、いいかもなんすよ。酒効いてないくらい思い詰めちまってるなら、ついでに押し込んじゃえばどうっすか?」
「バカ」
「違ったすか!」
「…………」
「なんかその顔つき、ちょっと生臭いっすよね。あの時の女の立ち膝、思い出してっかな?」
「少しタガが緩んだかもしれん」
「なんのタガすか?」
「考え方のタガだ。――大村益次郎、絶対死んでねえだろ」
「8人狙って8人とも一刀で仕留めた俺じゃん。――そうだろ?」
「でも、9人目の大村には2太刀かかったんだ。その2太刀も、急所避けて膝に行ったんだからな。問題は外したあの最初の一太刀だ。8人斬って、8人とも外したことない俺の一刀が、なぜあの時空振りしたか、どう思う?」
「…………」
「心のよどみってのは恐ろしいもんだ。頼まれてばっか斬って歩いて、バカバカしい、と思ったからだろうってのが、手が狂った原因だ。――神代直人も、もう終わりだな。タガが緩んだと言ったの、それだ」
「じゃ、そんなこと考えなきゃいいじゃねえっすか」
「考えられるなら困らねえよ。おまえらもよく考えてみろ。――長州で3人、山県の狂介に頼まれて、保守派の奴ら斬ってんだろ。その山県狂介は今、どうなってると思う?陸軍の大臣様で馬のケツ叩きまくってんだろ。伊藤俊輔にも頼まれて2人、――その伊藤は、すぐ知事になるらしい、偉そうにしてやがる。桂小五郎にもそそのかされて3人、――その小五郎は、誰だと思ってる?木戸孝允様だよ、総理大臣みたいな顔してんのよ。――斬ってやった奴らが偉くなって、俺はまだ虫けらみたいな人斬り稼業だ」
「違いますよ!隊長!隊長はバカバカしいなんて仰ってますけど、斬った8人はみんな、日本のためなんですよね!」
「そう思って、俺も8人斬ったけど、日本やらなんやら、俺には屁みたいなもんさ。臭いもしねえ、音もしねえ、スウともピイともならねえ。――ハハハ……バカな話だ。ただ一度でいいんだよ!頼まれもしないで、憎いと思って、俺が怒って、本気でこの俺が憎いと思って、一度誰かを斬ってみたい!」
「斬ればいいじゃねえっすか!」
「いいだろ!」
「いいっすよ!人斬りの名が知れ渡ってる先生だからこそ、誰を斬ろうと不思議じゃねえっすよ!」
「…………」
「時代が変わったんすよ!憎くもねえのに、斬った昔は偉いってほめられたけど、憎くて斬っても、これからは俺が世間から追われるんですから。――好きにしろよ。俺は寝る。おまえらも好きにしろ」
「ダメですよ!隊長!手当もしないで寝たら傷が腐ります!せめて何か巻いておきましょう。そんな寝方しちゃいけません!」
「うるせえ!触んな!――腐ったら腐った時だ……」
原文 (会話文抽出)
「あれだね。――この忙しい最中に、先生も飛んだものを嗅いだもんさ。今の女のあの匂いを思い出したんでしょう」
「…………」
「旦那よりほかに寝かしもしないふとんの中へ入れたんだ。紙ひと重の違いだが、因縁のつけようじゃ浮気をしたも同然なんだからね。そこを一本、おどしたら、あの女、物になるかも知れんです。酒のしみるのが分らないほど、思いに凝っていらっしゃるなら、ことのついでだ。今からひと押し、押しこんでいったらどうでごわすかよ」
「バカッ」
「違いましたか!」
「…………」
「どうもそのお顔では、ちっときな臭いんですがね。あのときの女の立膝が、ちらついているんじゃごわせんか」
「どうやらおれも、少々タガがゆるんだかな」
「なんのタガです」
「料簡のタガさ。――大村益次郎、きっと死ななかったぞ」
「八人狙って八人ともに只の一刀で仕止めたおれじゃ。――のう、そうだろう」
「しかし、九人目の大村にはふた太刀かかったんだ。そのふた太刀も、急所をはずれて膝へいったんだからな。問題ははずれた最初のあのひと太刀じゃ。八人斬って、八人ともに狂ったことのないおれの一刀斬りが、なぜあのとき空へ流れたか、おまえらはどう思うかよ」
「…………」
「心のしこりというものはそら恐ろしい位だ。頼まれてばかり斬って歩いて、馬鹿々々しい、と押し入る前にふいっと思ったのが、手元の狂ったもとさ。――神代直人も、もう落ち目だ。タガがゆるんだと言ったのはそのことなんだよ」
「ならば、そんなろくでもないことを思わずにお斬りなすったらいいでがしょう」
「いいでがしょうと言うたとて、思えるものなら仕方がないじゃないか。おまえらもとっくり考えてみい。――長州で三人、山県の狂介めに頼まれて、守旧派の奴等を斬っちょるんじゃ。その山県狂介は今、なんになっておると思うかよ。陸軍の閣下様でハイシイドウドウと馬の尻を叩いているじゃないかよ。伊藤俊輔にも頼まれてふたり、――その伊藤は、追っつけどこかの知事様に出世するとか、しないとか、大した鼻息じゃ。桂小五郎にもそそのかされて三人、――その小五郎は、誰だと思っちょるんじゃ。木戸孝允で御座候の、参与で侯のと、御新政をひとりでこしらえたような顔をしちょるじゃないか。――斬ってやって、奴等を出世させたこのおれは、相変らず毛虫同然の人斬り稼業さ」
「いいえ! 違います! 隊長! 隊長は馬鹿々々しい馬鹿々々しいと仰有いますが、斬った八人はみんな、天下国家のために斬ったんでがしょう!」
「がしょう、がしょう、と思うて、おれも八人斬ったが、天下国家とやら、このおれには、とんと夢で踏んだ屁のようなもんじゃ、匂いもせん、音もせん、スウともピイともこかんわい。――ウフフ……馬鹿なこっちゃ。只のいっぺんでいい! 頼まれずに、憎いと思って、おれが怒って、心底このおれが憎いと思って、いっぺん人を斬ってみたい!」
「斬ったらいいでがしょう!」
「きっといいか!」
「いいですとも! 人斬りの名を取った先生がお斬りなさるんだから、誰を斬ろうと不思議はごわせんよ!」
「…………」
「お時勢が変っておらあ! 憎くもないのに、斬った昔は斬ったと言うてほめられたが、憎くて斬っても、これからは斬ったおれが天下のお尋ね者になるんだからのう。――勝手にしろだ。おれは寝る。おまえらも勝手にしろ」
「だめです! 先生! 手当もせずに寝たら傷が腐るんです! せめてなにか巻いておきましょう。そんな寝方をしたら駄目ですよ!」
「うるさい! 障るな! ――腐ったら腐ったときだ……」