佐々木味津三 『十万石の怪談』 「馬鹿め!」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『十万石の怪談』

現代語化

「バカな奴!」
「なんだよ」
「怒ったか?」
「いきなりバカ呼ばわりされたら、誰でも怒るだろう。俺がどうしてバカなんだよ」
「女々しいからさ。殿の前であの態はどういうことだ。なんで泣いたか殿は気づいてるぞ。あの時も意味ありげに言ったはずだ。乱世なんだから、月を見て泣く若侍ぐらいいてもいいだろうって言ったあの謎みたいな言葉だけでも分かるはずだ。もう気づかれてるよ」
「バカ言うな!俺の胸の中を、やすやすと分かるわけないだろ! 第一そんなことお前の知ったことじゃない」
「ところが明らかなんだが――」
「知ってるのか!」
「鏡みたいに。ちゃんと知ってるよ。だからさっきもあんなふうに願い事をしたんだ。疑うなら言ってみようか?」
「言ってみろ! まともに見当ついてるのか、聞いてやるよ! 言ってみろ!」
「言わないよ。当てられて恥ずかしい思いをするなよ。お前が女々しくなったのは全部奥さんが原因だろ。結婚したばかりの若くてきれいな奥さんが泣いてるってことだろ! どうだ。違うか!」
「……!」
「みろ! アハハ……。見事当たっただろ。俺笑うぞ! わはは。笑ってやるぞ! 未練がましい奴め。会津御援兵と決まったら、今晩にも出陣しなきゃならないから、置いていくのが辛いってことで、めそめそ泣いたんだろ! どうだ! 当てたろ?」
「…………」
「当てたな。未練がましい奴め。たかが女だろ。女の愛に後ろ髪引かれて、武士の本懐を忘れるとは何事だ! 情けなくて愛想が尽きるよ」
「ちょっと待て」
「なんだ?」
「たかが女とは聞き捨てならない。お前が言った通りだ。出陣が決まったらどうしようと考えて泣いたのも確かだけど、俺のあれは、いや俺とあれとの仲は人と違うんだ」
「言ったか。今そう言うだろうと思って待ってたんだよ。じゃあ迷いの夢を覚ますために、嗅がせてやるものがある。驚くなよ」

原文 (会話文抽出)

「馬鹿め!」
「なにっ」
「怒ったか」
「誰とても不意に馬鹿呼ばりされたら怒ろうわ。俺がどうして馬鹿なのじゃ」
「女々しいからよ。君前であの態は何のことかい。なぜ泣いたか殿はお気付き遊ばしておられるぞ。あの時も意味ありげに仰有った筈じゃ。乱世ともならば月を眺めて泣く若侍もひとりや二人は出て参ろうわと仰せあった謎のようなあの御言葉だけでも分る筈じゃ。たしかにもう御気付きなされたぞ」
「馬鹿を申せ!¨にも明かさぬこの胸のうちが、やすやすお分り遊ばしてなるものか!第一そう言うおぬしさえも知らぬ筈じゃわ」
「ところが明皎々――」
「知っておると申すか!」
「さながらに鏡のごとしじや。ちゃんと存じておるわ。さればこそ、さき程もあのように願ってやったのじゃ。疑うならば聞かしてやろうか」
「聞こう! 言うてみい! まこと存じておるか聞いてやるわ! 言うてみい!」
「言わいでか。当てられて耻掻くな。おぬしが女々しゅうなったそもそもはみな奥方にある筈じゃ。契ったばかりの若くて美しいあの恋女房が涙の種であろうがな! どうじゃ。違うか!」
「……!」
「みい! アハハ……。見事的中した筈じゃ。俺は嗤うぞ! わはは。嗤ってやるぞ! 未練者めがっ。会津御援兵と事決まらば、今宵にも出陣せねばならぬゆえ、残して行くが辛さにめそめそ泣いたであろうがな! どうじゃ! 一本参ったか!」
「…………」
「参ったと見えるな。未練者めがっ。たかが女じゃ。婦女子の愛にうしろ髪曳かれて、武士の本懐忘れるとは何のことか! 情けのうて愛想がつきるわ」
「いやまてっ」
「何じゃ」
「たかが女とはきき棄てならぬ。いかにもおぬしの図星通りじゃ。出陣と事決まったらどうしようと思うて泣いたも確かじゃが、俺のあれは、いいや俺とあれとの仲は人と違うわ」
「言うたか。今にそう言うであろうと待っていたのじゃ。ならば迷いの夢を醒ましてやるために嗅がしてやるものがある。吃驚するなよ」


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