GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『十万石の怪談』
現代語化
「ふむ。なるほどな」
「気持ち悪い話だな。やっぱり子按摩は親の仇討ちに来たんだな」
「はい、そうだと思います。魂魄、――まさしく魂魄に違いありません。親の魂魄の導きを受けて、仇討ちに来たは来たんですが、赤堀先生は有名な腕達者ですから、普通の方法では討てないと、習い覚えた按摩の技術でまず右腕の急所を揉みつぶし、それから討ち果たそうとしたそうですけど、すぐにバレて、ひどい目に遭ったそうです」
「いかにも。面白い話だ。ところで赤堀はどうなったんだ?」
「不思議です。それから先、水甕を覗くたびに、いつもいつも父親の死顔が浮かぶので、とうとうそれが原因で気が狂って死んだそうです」
「そうだろうな。ますます話が面白くなってきた。次は誰だ。誰か持っているやつがあるだろう。話してみろ!」
「…………」
「返事がないな。多々羅はどうだ?」
「せっかくですが――」
「ないのか。永井! お前はどうだ?」
「私もまったく――」
「使えない奴らだな。じゃあ林田! お前にはあるだろう。どうだ。ないのか?」
「いえ、あの――」
「あるんだろ!」
「はい。ありますけど……」
「言えよっ。門七!」
原文 (会話文抽出)
「――先年亡くなりました父からきいた話で厶ります。御存じのように父は少しばかり居合斬りを嗜みまして厶りまするが、話というのはその居合斬りを習い覚えました師匠にまつわる怪談で厶ります。師匠というのは仙台藩の赤堀伝斎、――父が教を乞いました頃は勿論赤堀先生のお若い時分の事で厶りまするが怪談のあったというのはずっとのちの事で厶ります。なにしろ居合斬りにかけては江戸から北にたったひとりと言われた程のお方で厶りましたゆえ、御自身も大分それが御自慢だったそうに厶りまするが、しとしとといやな雨が降っていた真夜中だったそうに厶ります。どうしたことか左の肩が痛い……。いや、夜中に急に痛くなり出しまして、どうにも我慢がならなくなったと言うので厶ります。右が痛くなったのであったら、武芸者の事でも厶りますから、別に不思議はないが、奇怪なことに左が痛みますゆえ、不審じゃ、不思議じゃと思うておりましたとこへ、ピイ……、ピイ……と、このように悲しげに笛を鳴らし乍ら按摩が通りかかったと言うので厶ります。折も折で厶りますゆえ、これ幸いとなに心なく呼び入れて見ましたところ、その按摩がどうもおかしいと言うので厶りまするよ。目がない! いや、按摩で厶りますゆえ、目のつぶれているのは当り前で厶りまするが、まるで玉子のようにのっぺりと白い顔をしている上に、まだ年のゆかぬ十二三位の子供だったそうに厶ります。それゆえ赤堀先生もあやぶみましてな、お前のような子供にこの肩が揉みほぐせるか、と申しましたところ、子供が真白い顔へにったりと薄ら笑いを泛べまして、この位ならどうで厶りますと言い乍ら、ちょいと指先を触れますると、それがどうで厶りましょう。ズキリと刺すように痛いと言うので厶りまするよ。その上に揉み方も少しおかしい。左が痛いと言うのに機を狙うようにしてはチクリ、チクリと右肩を揉むと言うので厶ります。それゆえ、流石は武芸者で厶りまするな。チクリチクリと狙っては揉み通すその右肩は居合斬りに限らず、武芸鍛練の者にとっては大事な急所で厶ります。用もないのに、その急所を狙うとはこやつ、――と思いましてな、なに気なくひょいと子供を見ますると、どうで厶りましょう! のっぺりとした子供のその白い顔の上に今一つ気味のわるい大人の顔が重なって見えたと言うので厶りまするよ。しかも重なっていたその顔が、――ひょいと見て思い出したと言うので厶ります。十年程前、旅先で、自慢の居合斬りを試して見たくなり、通りがかりにスパリと斬ってすてた、どこの何者とも分らない男の顔そのままで厶りましたのでな、さては来たか! そこ動くなっとばかり、抜く斬る、――実に見事な早業だったそうに厶ります。ところが不思議なことにもその子供が、たしかに手ごたえがあった筈なのに、お台所を目がけ乍らつつうと逃げ出しましたのでな、すかさずに追いかけましたところ、それからあとがいかにも気味がわるいので厶ります。開いている筈のない裏口の戸が一枚開いておって、掻き消すようにそこから雨の中へ逃げ出していったきり、どこにも姿が見えませなんだゆえ、不審に思いましてあちらこちら探しておりますると、突然、流し元の水甕でポチャリと水の跳ねた音がありましたのでな、何気なくひょいと覗いて見ましたところ、クルクルとひとりでに水が渦を巻いていたと言うので厶りまするよ。そればかりか渦の中からぬっと子按摩の父の顔が、――そうで厶ります。旅先で斬りすてたどこの何者とも分らないあの男の顔が、それも死顔で厶ります。目をとじてにっと白い歯をむいたその死顔が渦の中からさし覗いていたと言うので厶ります。いや、覗いたかと思うと、ふいっと消えまして、それと一緒にバタリと表の雨の中で何やら倒れた音が厶りましたゆえ、さすが気丈の赤堀先生もぎょっとなりまして怕々すかして見ましたところ、子按摩はやはりいたので厶りました。見事な居合斬りに逆袈裟の一刀をうけ、息もたえだえに倒れておったと言うので厶ります」
「ふうむ。なるほどな」
「気味のわるい話じゃ。やはり子按摩は親の讐討ちに来たのじゃな」
「はっ、そうで厶ります。魂魄、――まさしく魂魄に相違厶りませぬ。親の魂魄の手引きうけて、仇討に来は来ましたが、赤堀先生は名うての腕達者、到底尋常の手段では討てまいと、習い覚えた按摩の術で先ず右腕の急所を揉み殺し、然るのちに討ち果そうと致しましたところを早くも看破されて、むごたらしい返り討ちになったのじゃそうに厶ります」
「いかさまな、味のある話じゃ。それから赤堀はどうなったぞ」
「奇怪で厶ります。それから先、水甕を覗くたびごとに、いつもいつも父親の死顔がぽっかりと泛びますゆえ、とうとうそれがもとで狂い死したそうで厶ります」
「さもあろう。いや、だんだんと話に気が乗って参った。今度は誰じゃ。誰ぞ持合せがあるであろう。語ってみい!」
「…………」
「返事がないな。多々羅はどうじゃ」
「折角乍ら――」
「ないと申すか。永井! そちは如何じゃ?」
「手前も一向に――」
「不調法者達よ喃。では林田! そちにはあるであろう。どうじゃ。ないか」
「いえ、あの――」
「あるか!」
「はっ。厶りますことは厶りまするが……」
「言うなっ。門七!」